夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

「初めて、、こんなに泣きました。」
 自分でも驚いたように微笑んでいる。
少し落ち着いたようで穏やかな表情だ。
「私、お姉ちゃんだから、、って頑張らないといけないって思ってたから、、。こんなに、、涙が溜まってたなんて知らなかった。」
 掠れた声で続けた。
「だからあの時、もうちょっと力抜けよって言ったのに。、、でも、今までそのくらい必死に頑張ってきたってことだ。」
「葉月くん。ありがとう。」
 涙を拭いて、雨夜がそう言った。
俺は微笑みを返した。

「それにしても、、えいれい社って、俺らの一存では仕事出来ねぇぞ?どうやってするつもりだったんだよ?」
 キラキラと輝く海を見つめながら訊く。
「私、、どうやったら誰にもバレずに捕まらずに復讐できるか、っていうのを学ぶためにえいれい社に来たんです。最初。それが、影さんにバレて、、。それで影さんに辞めてくれって言われました。それが半年前のことです。」
「あ!あの時、、俺に初めて話があるって言ってくれた日か!」
 手すりから身を乗り出していたのを慌ててもとに戻して雨夜と視線を合わせる。
「はい、、。」
 恥ずかしそうに頷いた。

──そうか、、。あの頃雨夜の様子がおかしかったのは復讐のために資料などから情報を得ようとしていたからか。、、ん?ってことは、、それを俺が影に告げ口したから辞めさせられた!?

「悪い。俺が影に雨夜の様子がおかしいって相談したんだ。」
 慌てて事実を話した。
「そんなの慌てなくても。影さんにはちゃんと正直に話しました。そしてもう一度、雇ってくださいとお願いしました。現に今も働いていますし。」
 くすり、と俺の反応が面白そうに微笑んだ。
「よかった、、。ってか、そりゃそうだよな。」
 俺も笑いかけながら雨夜の方を向くと、まだ表情が固かった。
嫌な予感が、俺の背筋を凍らせた。

──まだ、、。何かあるのか、、?

「葉月くん。、、初の告白なんですけど、、。聴いてくれますか?」
 懇願するように雨夜が俺を見つめた。
少し怯えているようで手が震えていた。
「うん。聴くよ。」

「私は、、影さんに復讐はやめろ、、と釘を刺されました。でも、、まだ残ってるんです。心の中に、どうしても明けることのない、、闇が。あいつを殺すまで、捨てようと思っても捨てることができない。消そうと思っても消えない。だから、、。だから、、葉月くんには迷惑をかけると思います。ごめんなさい。」
 胸に手を当てながら必死に訴える雨夜の姿を見て、俺は直感した。

──やっぱり、、雨夜はもう、誰にも止められない。復讐を、、。

「でも、ちゃんと依頼人のために働きますから。」
 受け入れてくれない、と不安になったのか慌てて付け加えた。
「迷惑なんて、、そんなの思ってねぇよ。謝らなくても、、いい。」
 俺はキッパリと言った。
雨夜は心底安心したように息をついた。

そんな雨夜を見て、俺はこの切ない目を持つ雨夜を、助けたい。守りたい。
そう思った。
でも、、俺には出来ないことだ。
ただ、隣に立つことしかできない。
というか、立ってすらいけない人間だ。
だって、、俺は雨夜に、、隠していることが、、あるから。