夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

「私の父は私が10歳の時、交通事故で亡くなりました。信号無視をした車に撥ねられたんです。運転手は、捕まりました。、、ですが、本当の運転手は、別の人物だったんです。そいつが、、同乗していた部下に罪をなすりつけたのだと、後からわかったんです。母をも、、殺されてから。」
 雨夜の目は本当に悲しそうに涙が光っていた。
「母は、1人で私たち3人を育てようとしました。でも、、1人では、大変だったんだと思います。そして、私たちに、父親のぬくもりも必要だと、母なりに考えてくれたんです。だから、同じ会社の上司と付き合い始めました。でも、、その上司は既婚者でした。母は、ただの遊びとしか見られていなかったんです。しかも、、その同僚は父を轢き殺した、、真犯人だったんです。」
「え!?」
 雨夜の話に首を突っ込む気はなかったのだが、つい、驚いて言葉を発してしまった。
「父を殺した真犯人についてのタレコミの記事に、、そいつの名前が書いてありました。ですが、すぐ訂正の記事が出ました。母は、すぐに真相を確かめに行きました。、、ですが、そこでそいつの家庭を目にしてしまったんです。そして訳を聞こうとした母は、そいつの冷酷な目を見て、確信したそうです。私の夫、みんなのお父さんを殺したのは、、この人だ。と。、、母から送られてきたメールにそう書いてありました。」
 一度目を瞑り、深呼吸する雨夜。
俺は黙って雨夜の話の続きを待った。

「父を、、殺した犯人を、母は愛してしまったんです。信じていたのに、、裏切られたんです。そして、母は入水自殺しました。強い人だったけれど、、この時ばかりは、耐えられなかったみたいです。だから、、父も母も、奪ったあいつを、、私は絶対に許さない。」
 必死に言葉をしぼりだすように言った。

──でも、、俺は何もできない。だって、、。

「そして、私はその男を殺すためにこの会社に入りました。私の家族を壊した、、あいつを殺すために。」
 雨夜の目は、いつか見た、、あの怖い目をしていた。
でも、、今は涙に濡れていた。

「雨夜、、。話してくれて、、ありがとな。俺に、伝えようと思ってくれて、ありがとう。、、雨夜、、俺さ、ちゃんと涙流した方がいいと思うぜ。雨夜、泣いてないんじゃないか?今だって今にも雫が落ちそうなのに、我慢して。泣きたかったら泣かねぇと。涙は、、我慢したら、苦しいだけだぜ?」
 俺は一つ一つ言葉を伝えるように優しく諭した。

──そんな悲しい顔、しないでよ。辛い時、我慢しても何にもならない。

『泣きたい時は、泣け。』

──この、、ある人の言葉でどれだけ救われたか、、。そういう辛い時の、気持ちは、、知ってるから。もう二度としたくないから、、。

俺はその言葉を雨夜に投げかける。
「泣きたい時は、泣け。」

この言葉に、雨夜はしばらく俺を見つめ返していたが、だんだんと口元が歪み、嗚咽の声が響いた。
とめどなく、頬に涙が流れた。
何度も何度も、雨夜は手で頬を撫でる。
でも、、そのあたたかな涙は止まる気配がなかった。