夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

 雨夜が此処に来て一年半が経とうとしていた。
「葉月くん。大事な話があります。」
 唐突に真剣な表情で雨夜が切り出してきた。

あの時の、話の続きを聴くことができるってことか。と内心緊張した。
雨夜の決心は固まって、俺に話したいって思ってくれたということだ。
たくさん悩んで話してくれるようなそんな大切な話を聴くと思うとどきりとする。
 ちなみに、雨夜は俺のことを葉月くんと呼んでいる。

「もう1年以上一緒に仕事してるんだし、呼び捨てでいいよ。さん付け硬いし。」
 と言ったら、
「呼び捨てはちょっと、、。」
 と言われたので
「じゃ、葉月くん、とか?」
「じゃ、葉月くんで。」
 ということになった。

──さん付けって堅苦しいし、他人行儀。俺だけ雨夜って呼び捨てで、なんか悲しくね?俺だけ?こう思ってるの?

 その時のことを思い出しながら、俺は雨夜を待っていた。
俺は雨夜にえいれい社のビルのロビーで待つように言われていた。

「葉月くん、お待たせしてすみません。」
 と雨夜が走ってきた。
「いいよ。俺も今来たとこだし。」
 と声をかけた。
「せっかくの休日なのに、すみません。わがまま言ってしまって。」
 頭を下げ俺に謝ってきた。
「大丈夫だって!休日なんて特になんにもしてねぇから、、。」
 何度目かの謝罪に呆れて苦笑する。
雨夜に話があると言われた時、一つお願いをされていた。
「ある場所で、話したいんですけど少し遠いので半休か、休みの日に、できれば、、。もし葉月くんが良ければなんですけど、無理なら無理と。」
 と申し訳なさそうにお願いしてきた。
断る理由はない。
俺に話そうって思ってくれてるってわかったから。
俺を信用してくれているって、わかったから。

電車に乗られること小一時間。
海のある街に着いた。
「此処が、私の故郷です。」
 雨夜が嬉しそうに、でも何故か切なげに、呟いた。
そんな雨夜に街を案内され、目的地に到着した。

「私たち家族の、思い出の場所。灯台です。」
 
俺の目の前には、とても綺麗な灯台があった。
真っ白で、高さは10メートルほど。内部に階段があり、上に上がった外側は展望台になっている。
俺たちは中央の階段を登った。
そして、展望台から海を眺めた、

「綺麗だな、、。」
 俺の目の前には大きな海が広がっていた。
「私の、、。家族が全員揃った最後の場所なんです。」
 本当に悲しそうな声をした。
「え?」
「話しておきたいんです。私の過去と、、私が、、えいれい社にいる理由。」
 雨夜の言葉は、とても大きな決意が込められていた。
俺は黙って力強く頷いた。
そして、俺も覚悟を決めた。
雨夜が語ってくれるもの、全てを受け入れる覚悟を。