夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

『お前が、、殺した。』

その声が私を襲う。

──私じゃ、ない。

同じセリフを、、二度も言われるなんて、、。

──え、、?二度?、、そうだ。同じことをある男から言われたんだ。


数年前、、。
私の元に1人の男が運ばれてきた。
「状況は?」
「首を吊っているのを発見され、心肺停止状態です。身元は不明です。」
 その男を胸骨圧迫している救急隊員が答えた。
「滝宮先生!もう1人、救急の患者が!」
 看護師が駆け込んできた。
「食品会社の御曹司の方で、持病の発作で、緊急手術が必要かと!」
「わかった。すぐに行く。」
 私は身元不明の男を置いて、御曹司の元へ向かった。

「その男はもう手遅れ。緊急手術の患者を優先する。」
 私は言い放った。
「でも、こちらの患者の方が、早かったはずです。どうしてですか?」
 後輩の医者が訴える。
「もう手遅れだからだ。まだ可能性のある患者を優先的に助ける。それの何が間違っているんだ。早くこの人を手術室へ。、、それでも私に文句があるのか?」
 私の言葉に下唇を噛みながら、後輩は胸骨圧迫をやめた。

その後、御曹司の手術は成功して、一命を取り留めた。
身元不明の男は死亡した。

「滝宮君、よくやった。君の判断は正しかったよ。」
 院長にそう囁かれた。
「私は、医者としてできることをしたまでです。」

院長は金のためなら何でもする人間である。
だから、1分後に運ばれた御曹司を優先することを正しいと思っているのだ。
ただの男を後回しにしたことに、、何も思わない輩なのだ。