俺は、このことを影に相談するため、社長室の前に立った。
コンコンコン、とノックする。
「はい。」
「葉月です。今、いいですか?」
「どうぞ。入ってください。」
 影の声を合図に、俺は扉を開けた。
「失礼します。」
 軽く会釈しながら入ると、影はいつも通りデスクの前に座っていた。

「どうしたんですか?葉月が此処に来るなんて珍しい。何か、私に初の相談ですか?」
 影は少し楽しそうに、そして不思議そうに尋ねた。
「は、はい。実は、雨夜のことなんですが。」
 早速俺は話を切り出した。
影との会話は、何故か何もかもを見透かされているようで苦手だ。
「雨夜?」
「はい、此処のところ、様子がおかしいんです。」

「雨夜の様子がおかしい?」
 影が訊き返した。
「はい、1人でパソコンと向き合ったり、古い資料を調べたり。本人は調べ物だ、と。」
 俺は雨夜の行動を伝えた。
「雨夜がですか、、。どうしたのでしょう、、?」
 影は何か思案した後、
「わかりました。私から雨夜に話しておきます。」
 と頷きながら言った。
「よろしくお願いします。」
 俺はそう言い、頭を下げた。
そして社長室を出た。

俺には話してくれなかったけれど、影なら雨夜の気持ちを引き出すことができる、そう確信していた。
でも、まだ不安は残っていた。
だから、少しでも不安を紛らわせようとヴァイオリンを手に屋上へと向かった。