「で、今も、毎日天に向かって弾いている。ってわけだ。」
少し俺は当時のことを思い出し、涙ぐんでしまった。
「おにいさん、とても良い方だったんですね、、。」
「あぁ。良い人だった、、。」
俺は相槌を打つと。
「葉月さんも、負けないくらい、良い方ですよ?」
「え、、?」
俺は勢いよく顔を上げてしまった。
「葉月さん、お願いがあるんです。」
「え、あ、うん。」
急に話題を振られて、肩すかしを食らった気分になる。
「あの、、もう一度、弾いてもらえませんか?此処で。私、、葉月さんのヴァイオリン、大好きなんです!」
表情を明るくしながら雨夜が言った。
「、、もちろん!」
俺は快く引き受け、早速かまえた。
──いつもより、、心地いい。気持ちいい。音が、とても気持ちがいい。
手が滑らかに動く。
──何故だろう、、。
弾きながら、俺は雨夜に目を向けた。
──そっか、、。俺、今、雨夜に演奏を聴いてもらえて、幸せ、なんだ。
俺の視線の先には、うっとりとした目で、ヴァイオリンの音色に耳を傾ける雨夜がいた。
体を揺らしながら、優しい目をしている。
──俺、いつのまにかみんなのために、弾くことを諦めてた。でも、、今、みんなの前で弾くことの、楽しさを思い出して、すごく、、嬉しい。やっぱり、、いいな。ヴァイオリン。
俺は一度捨てた感情を取り戻した。
置いてけぼりにしてた、この感情を、もう一度探し当てた。
──雨夜の、、おかげで。
俺は弓を弦から離した。
と同時に、拍手の音が聞こえた。
「葉月さん、ものすごく、よかったです!」
目を少し潤ませ、口元を綻ばせた。
「っ!?」
──雨夜の、、笑顔、、。
俺はこの時、雨夜の本当の笑顔を見た気がした。
明るくて、楽しそうで、可愛い、笑顔。
「葉月さん、、。ありがとう、、。」
「え?!」
俺は狼狽えた声を上げた。
「な、泣いてる?な、なんで?」
雨夜は静かに頬を濡らしていた。
「葉月さんの、ヴァイオリンに、感動したんです。」
そっぽを向き目頭を必死に抑えている。
「そっか、、。ありがとな。」
優しく雨夜の肩に手を置いた。
その言葉がとても嬉しかったけど、俺にはその涙が、寂しさの涙に見えた。
俺が何度も流した、あの涙に。



