「じゃ、お疲れ様。」
俺は雨夜に声をかけた。
「え、あ、はい。お疲れ様です。」
雨夜もぺこりとお辞儀をした。
──何をそんなに戸惑ってるんだ?
内心首を傾げながら更衣室の扉を開いた。
俺は迷いなくロッカーに手をかけた。
この中には、、必要最低限の衣服、仮面、そして、、俺の大切なものが入っている。
その大切なものが入ったケースを持った。
そしてもう一つ、小型ランタンをつけて、口に咥える。
更衣室の窓を開けて、ケースを背負い、身を乗り出す。
窓の右側には簡易の非常梯子がある。外の心地良い風を肌で感じながら梯子を上り、屋上へ出た。
口に咥えていたランタンを地面に置き、ケースを開けた。
──俺の、、大切なヴァイオリン。
弓を構え、俺はヴァイオリンを弾き始めた。
──讃美歌320番 主よ御許に近づかん
タイタニック号が沈むまで、楽団員が弾き続けたと言われる曲。
そして、、あの人が大好きだった曲。
──ヴァイオリンを弾いている時、1番生きていると感じる。たぶん、、死んだ人に祈りを捧げるために、、弾いているから。今、此処にいない、大切な人たちのために弾いてるから。
弦から弓を離した。
およそ4分半の曲。この時間に俺の祈りの気持ちを全てのせた。
空の何処かにいる、大切な人たちのための祈りをのせた曲。
──今日も、弾いたよ。、、聴こえた、かな?
パチパチパチ、と後ろから拍手の音がする。
一瞬彼らが現れたのかと思ったが、そんなことは、ありえない。
後ろを振り返った。
「あ、雨夜、、?えぇ!?なんで此処に?」
振り返った先には、こちらを向き、地面にちょこんと座っている雨夜がいた。
「えっと、、。私、いつも葉月さんのヴァイオリン、下の階で聴いてたんです。」
「え?!」
「ヴァイオリンって、音がよく響くんです。だから、下まで響いて来てて。弾いてる本人はわからなかったみたいですけど、、。」
雨夜は苦笑しながら立ち上がった。
──全く気づいていなかった。、、ってことは?
「あの、、みんなも知ってる、ってこと?」
おずおずと雨夜に尋ねる。
「あ、、そう、ですね。」
しまった、という顔をして曖昧に頷いてみせた。
「えぇ?!ホントに?」
「はい、、。実は口止めされてたんですけど。つい、、目の前で聴いてみたいって思っちゃって、、。」
俺は此処に入って、屋上への梯子を見つけてから、毎日と言っていいほど屋上で演奏をしていた。
自分の家で弾いていたらお隣さんに怒られて、何処か弾ける場所を探していた時に運良くえいれい社の屋上、という絶好の場所を見つけたのだ。だが、外だし聴こえないだろうからいいだろう、という軽い気持ちで今まで許可を取らずに演奏してきた。
なのに、この演奏が筒抜けだったなんて。
「あ、今更この演奏をやめろ、だなんて言いません。逆に、みんな癒されてるんです、、。」
「え、、?癒されてるってどういう?」
うっとりとした表情の雨夜に訊き返す。
「葉月さんのヴァイオリン、本当に素晴らしいと思います。その音に引き込まれるって言うか、、。ずっと聴いていられる、と言うか。とにかく、聴いていてすっごく心地いいんです。しかも、曲は主よ御許に近づかん、ですし。みんな葉月さんのヴァイオリンを毎日楽しみにされてるんですよ?」
「そ、そうだったんだ、、。」
間抜けに口をポカンと開けながら相槌を打つ。
「でも、何処で弾いてるのか知らなくて。私、毎日何処で弾いてるんだろうって不思議に思ってたんです。でも、今日、葉月さんがなかなか更衣室から出てこないので、おかしいな、って思ってたら、上からヴァイオリンの音が聞こえてきて。、、本当に失礼ながら入らせていただくと、窓が開いていて。そして梯子を発見し、登ってきたというわけです。」
恥ずかしそうに頬を赤らめているのが、ランタンの灯に照らされて見えた。
──いや、、。恥ずかしいの俺だって、、。
気を紛らわすように頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「あの、、。よかったら、どうしてヴァイオリンを弾いているのか、教えてくれませんか?」
「ッ!?、、いいよ。」
少し驚いたが、すぐに頷いた。
そして、別に隠すことではねぇしな、と呟き、雨夜のそばへ行き、2人してランタンのそばに座った。
俺は雨夜に声をかけた。
「え、あ、はい。お疲れ様です。」
雨夜もぺこりとお辞儀をした。
──何をそんなに戸惑ってるんだ?
内心首を傾げながら更衣室の扉を開いた。
俺は迷いなくロッカーに手をかけた。
この中には、、必要最低限の衣服、仮面、そして、、俺の大切なものが入っている。
その大切なものが入ったケースを持った。
そしてもう一つ、小型ランタンをつけて、口に咥える。
更衣室の窓を開けて、ケースを背負い、身を乗り出す。
窓の右側には簡易の非常梯子がある。外の心地良い風を肌で感じながら梯子を上り、屋上へ出た。
口に咥えていたランタンを地面に置き、ケースを開けた。
──俺の、、大切なヴァイオリン。
弓を構え、俺はヴァイオリンを弾き始めた。
──讃美歌320番 主よ御許に近づかん
タイタニック号が沈むまで、楽団員が弾き続けたと言われる曲。
そして、、あの人が大好きだった曲。
──ヴァイオリンを弾いている時、1番生きていると感じる。たぶん、、死んだ人に祈りを捧げるために、、弾いているから。今、此処にいない、大切な人たちのために弾いてるから。
弦から弓を離した。
およそ4分半の曲。この時間に俺の祈りの気持ちを全てのせた。
空の何処かにいる、大切な人たちのための祈りをのせた曲。
──今日も、弾いたよ。、、聴こえた、かな?
パチパチパチ、と後ろから拍手の音がする。
一瞬彼らが現れたのかと思ったが、そんなことは、ありえない。
後ろを振り返った。
「あ、雨夜、、?えぇ!?なんで此処に?」
振り返った先には、こちらを向き、地面にちょこんと座っている雨夜がいた。
「えっと、、。私、いつも葉月さんのヴァイオリン、下の階で聴いてたんです。」
「え?!」
「ヴァイオリンって、音がよく響くんです。だから、下まで響いて来てて。弾いてる本人はわからなかったみたいですけど、、。」
雨夜は苦笑しながら立ち上がった。
──全く気づいていなかった。、、ってことは?
「あの、、みんなも知ってる、ってこと?」
おずおずと雨夜に尋ねる。
「あ、、そう、ですね。」
しまった、という顔をして曖昧に頷いてみせた。
「えぇ?!ホントに?」
「はい、、。実は口止めされてたんですけど。つい、、目の前で聴いてみたいって思っちゃって、、。」
俺は此処に入って、屋上への梯子を見つけてから、毎日と言っていいほど屋上で演奏をしていた。
自分の家で弾いていたらお隣さんに怒られて、何処か弾ける場所を探していた時に運良くえいれい社の屋上、という絶好の場所を見つけたのだ。だが、外だし聴こえないだろうからいいだろう、という軽い気持ちで今まで許可を取らずに演奏してきた。
なのに、この演奏が筒抜けだったなんて。
「あ、今更この演奏をやめろ、だなんて言いません。逆に、みんな癒されてるんです、、。」
「え、、?癒されてるってどういう?」
うっとりとした表情の雨夜に訊き返す。
「葉月さんのヴァイオリン、本当に素晴らしいと思います。その音に引き込まれるって言うか、、。ずっと聴いていられる、と言うか。とにかく、聴いていてすっごく心地いいんです。しかも、曲は主よ御許に近づかん、ですし。みんな葉月さんのヴァイオリンを毎日楽しみにされてるんですよ?」
「そ、そうだったんだ、、。」
間抜けに口をポカンと開けながら相槌を打つ。
「でも、何処で弾いてるのか知らなくて。私、毎日何処で弾いてるんだろうって不思議に思ってたんです。でも、今日、葉月さんがなかなか更衣室から出てこないので、おかしいな、って思ってたら、上からヴァイオリンの音が聞こえてきて。、、本当に失礼ながら入らせていただくと、窓が開いていて。そして梯子を発見し、登ってきたというわけです。」
恥ずかしそうに頬を赤らめているのが、ランタンの灯に照らされて見えた。
──いや、、。恥ずかしいの俺だって、、。
気を紛らわすように頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「あの、、。よかったら、どうしてヴァイオリンを弾いているのか、教えてくれませんか?」
「ッ!?、、いいよ。」
少し驚いたが、すぐに頷いた。
そして、別に隠すことではねぇしな、と呟き、雨夜のそばへ行き、2人してランタンのそばに座った。



