夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

 巴瑠美に計画案を渡してから一週間が経とうとしていた。
影からは、住居偽装の件も含めて一旦様子を見ましょう、とのことだった。

何も動きがないまま、週明けを迎えた。
あくびをしながら部屋に入った俺に要が怒鳴る。
「葉月!遅い。早く席に着け!」
「へ?まだ9時前っすよ?」
 あくびを噛み締めて訊くと
「いいから。もう全員集まってる。」
 と呆れられてしまった。
「ふあぁい、、。」
 あくびと返事の間の声を出し席に着く。

「今入った情報だ。南ハイツというビルで男性が転落死した。被害者は酒を大量に摂取していたらしく、警察は事故の方向で捜査を進めている。この意味、、わかるよな?」
 ハキハキとした口調で要が話した。

──これを言うためにピリピリしてたのか、、。ってそうじゃねぇだろ!

俺は慌てて寝ぼけた頭を叩き、要の言葉を反芻した。
宮原巴瑠美が動いたのだ。
俺らの考えた計画通り、事故に見せかけて、、。

──え、、?事故?自殺じゃ、、なくて?

「事故?、、今、事故って言いました?」
 咄嗟に俺は訊き返す。
「あぁ。何かの手違いだろう、、。もしくは、遺書を書く時間がなかったのかもしれない。、、どのみち事故で処理されるだろうとは思うが、、。」
「はぁ、、。」
 気のない返事になってしまったが、そんなことに考えを及ぼす場合ではなかった。

──何故だ?

俺は釈然としなかった。

「依頼人から連絡が来ました。」
 と影が部屋に入ってきた。
一斉に影の方へ視線が集まる。
「依頼人によると、パソコンのパスワードがなかなか見つからなかったこと、そして遺体の発見が予想より早かったことが重なり、時間がなく遺書が書けなかったそうです。やむなくそのまま出て行ったそうです。」
 影の説明に、それなら事故の方向で捜査が進んでいるのも頷ける、みんな納得したようだった。
「報酬は?」
 めざとく要が訊いた。
「いただきました。」
 淡々とした声が響く。

──だが、、。パスワードは事前に手に入れていたはずでは?それに、、。

 俺の気持ちは晴れないままだった。
だが、
「なら、もう終わったことだ。」
 と俺の思考を遮るように要が言い放った。
周りを見ると、鈴も影も雨夜も頷いていた。

──そう、だな、、。もう、終わったことだ。もう、関係のないことだ、、。

 俺は頭を振って気持ちを切り替え、机に向かった。