夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

 窓から降り注ぐ日の光を眺めていた俺は飛び起きた。
「ヤベェ!!寝過ごした!」
 と叫び、急いで身支度。
そして俺は家を飛び出した。

階段を一気に駆け降りる。
坂道を全力疾走。
慌てながら『えいれい社』とかかれた建物に滑り込んだ。

俺の家から徒歩5分の場所にあるこの会社。
近すぎて逆に寝坊は日常茶飯事だ。
エントランスにある時計を見ると、もう午前9時になろうとしていた。

「やべ、、。まじでやべぇ、、。」
 仕事場の部屋はこのビルの3階。
運悪くエレベーターが3階で止まっている。
 軽くため息を吐き、エレベーターの横の階段を駆け上がった。
階段を登りきって左側の突き当たりが俺の仕事場。
 階段を駆け上がった勢いのまま左に曲がった。

 突然前になにかが現れた。

「うお?!」
 俺は変な声をあげてそのなにかにぶつかった。
避けようとしたが間に合わなかった。

「いてて、、。」
 弱々しく呟く。

──なんだ?ってか尻もちついたから、、尻痛え、、。

「すみません。」
 前から声がした。
 やけに俺の耳に響く、綺麗な声だった。

 声のした方を見ると1人の少女が俺を見ていた。
「え?」

──誰?

10代半ばくらいの少女。
整った顔立ちをしている。
おろしたセミロングの髪が揺れている。
キリッとした目が大人っぽさを引き立てているが、ところどころ幼さが残っている。
だから、綺麗、というより、かわいい、という感じだ。

「あの、、大丈夫ですか?」
 心配そうに声をかけてきた。
「え?、、あ、大丈夫。」
 と慌てて立ち上がる。
「俺のほうこそ悪い。急いでたんだ。けがしてねぇ?」
「あ、はい、大丈夫です。」
 少女は頷いて見せながら答えた。

──こんな子、うちにいた?いや、いるわけねぇだろ、、。でも、やけに大人びてんな、、。
 俺は思わず少女を見つめた。

 その時、
葉月(はづき)!!お前、今何時だと思っているんだ!早く来い!」
 と俺の名を呼ぶ大きな声が聞こえた。
俺の上司、(かなめ)の声だった。
 その直後、バタンッと勢いよく戸が閉まる音がした。

──ヤッベェ!俺、此処で突っ立てる場合じゃねぇ。遅刻する!

「じゃ、俺は。」
 と一応少女に声をかけて走り出した。
1番突き当たりの扉に向かった。
 入ろうとした時、ちょうど戸が前に開き、俺の鼻にささった。

「痛ぇ!」
 思わず叫んで鼻に手を当てた。
「葉月!遅い!席につけ!」
 と要が俺の鼻などお構いなしに命令した。

要はこの会社で1番短気。
背が高く、いつも上から目線でものを言ってくる。
40代半ばくらいの男性で、そこそこ顔はいいから、こんな性格じゃなかったらモテていただろうな、、と内心思っている。

 俺は視線を上に向けながら、
「はよーざいます。すんませんでした。」
 と頭を下げ急いで自席に座った。

──遅れたの、たったの3分じゃねぇか、、。
 時計を横目に内心毒づく。

「もう二十歳なのに遅刻癖は治らないわね。」
 と隣の席の(りん)に声をかけられた。
 30代後半くらいのショートカットの女性。
姉御肌で頼りになる人だ。
この社のお母さん的存在。
ただし、自分では姉、と言い張っている。

「まだ19です。酒もタバコもまだです。」
 19を強く強調しながら言う。
「19も20も一緒よ。」
 サラッと言った。

──いや、全然違うと思いますけど?!
心の中で突っ込む俺だが、思わず別の気になることを口にした。

「あの、、さっき、女の、、人と会った会ったんすけど、誰かわかります?」
 女の子と言おうとしたがなんとなく人にした。
此処は、子供の来るような場所じゃない。

「さあ?今日は(シャドウ)さんがいないからお客さんじゃないかしら?」
 首を傾げながら鈴は答えた。
「そうっすよね、、。」
 返事はしたものの、わだかまりは残った。

誰だったのだろう。
あの少女のことが気になって仕方がない。
特に、あの少女の冷たい目。
印象に残った。
暗くて、悲しい目をしていた。
そして、妙に大人っぽい姿。
凛とした声。

あの少女は、、。
誰なんだろう。

あれが、俺と少女の出会いだった。
俺の人生を変える少女との出会い。
今の俺には思っても見なかった。
人生が変わるなんて、、。
そして、変えることになるなんて、、。