しまった。もっと早くネットを調べておくべきだった。あれから念の為に“追いトマト”で検索したところ、いくつか他の書き込みが見つかった。“追いトマト”は草間賢治だ。
 草間賢治の考察は興味深いものばかりだった。彼は想像以上に、吉田の起こした事件や●●島のことについて詳しく調べていたようだ。そしてその結果、誇大妄想とも思える壮大な推理を作り上げた。
 彼が《いとまじ》という言葉を書き込んでいれば、もっと早くこのことを知れただろうに……だが、彼にとって《いとまじ》は《厭呪》だ。おそらく他人の目に触れてはいけないと考えて、徹底的に避けていたのだろう。
 疑問が残るのは最後の書き込み、『いとまじを誤解していた』とは、どういう意味か? 『警察に狙われている』というのも不穏だ。彼は錯乱状態にあった。心配する親から捜索届けを出したと言われ、それを変換して受け取ったのかも知れない。だが万が一、違う理由があったとしたら? 
 何か異常なことが起きている。それは明らかだ。まさか本当に呪い……? いや、引っ張られるな。何かあるはずだ。依然(いぜん)として全ての要素は曖昧(あいまい)。俺は決定的な鍵を求めて、資料を見直した。

 ●●島、皆既日食、巳年、いとまじ様、月引三人衆、とんど焼き、吉田大岐、十二年ごとの秘祭、干支、陰陽五行思想、インタビュー記録、手塚の火事、酒井刑務官と草間刑務官の自殺……

 酒井刑務官と草間刑務官は二人とも吉田大岐の死刑執行に携わっていた。執行職員として選ばれたのは偶然のはず。だが、もしなにか共通点があるとしたら? 二人とも、吉田と親しかった。そして《いとまじ》の意味を追っていた……
 草間のノートを見返す。五行の相関図、干支。酒井了太、三十一歳男性。草間賢治、四十三歳男性。バラバラの年代……いや、違う。十二歳差だ。二人とも巳年生まれ。いとまじ様の秘祭は巳年に行われる。吉田は儀式の生き残りだと草間は考えていた。もし、儀式が死刑によって完遂されたとしたら? そして、巳年生まれの人間がその役割を担うことが決まっていたとしたら。二人は、誰かしらの意図によって選ばれた……? 
 書き残す価値のある考察とは思えない。ぎりぎりオカルト記事にならない程度の強引な紐つけ……だが、今はこれが限界だ。どう考えても情報不足。
 明日、改めて●●島へ向かう。