満を持して、●●島の土を踏む。港から町までの道のりは、背景に連なる山々の影響か、はたまた潮風の香りによるものか、どこかノスタルジックな気持ちを起こさせた。
●●島の産業には古くは黒曜石の産出などがあったらしいが、最近では主に水産業へ舵取りをしたという。港にはそれらしい漁船が何隻か停泊しているのが見える。
町を構成する建物のほとんどは木製の日本家屋で、ところどころに植えられた満開の桜と相まった景色は、まるで昔話の絵本のようだ。コンクリート製の建物もちらほらあるが、そのほとんどは壁が黒ずんでいたりと老朽化が目に見える。
ホラー映画に出てくるようなおどろおどろしい因習村を想像したが、正反対の爽やかな印象。歴史のある島だけあって、観光施設もほどほどに充実していた。
最初に訪れたのは郷土資料館。比較的新しい建物で、中を見て回るのに二〇分ほど掛かった。展示の説明には、大化の改新から近代まで大まかに島の歴史が綴られていたが、例の室町時代の期間は空白で、代わりに文化面を押し出した内容で埋められていた。『月引三人衆』の写真パネルもあったが、観光向けの簡単なもので特にめぼしい情報は得られなかった。
次に宿泊施設を巡った。警察関係者として振る舞い、郷土資料館で起きた古書窃盗事件の捜査だと伝えて、ここ半年の顧客名簿情報を提供してもらった。総当たりで四軒目、寂れた和風旅館でようやく当たりを引く。
“令和一年十一月二十日……草間賢治”
女将に話を聞くと、久しぶりのお客だから印象に残っていたようで、その時のことを色々と思い出して教えてくれた。
最後に、町はずれの山へ向かう。この山には神社があり、明言されていないが『いとまじ様』を祀っていると思われる。なにか手掛かりが見つかるはずだ。
神社までの道案内などはなく、地図で道のりを確認してから向かう。山に入ると、山道には桜の花びらが白く敷き詰められていた。吉田死刑囚が花見をしたのは、おそらくこの山なのだろう。
傾斜が急なので、登山道は山を何度も横切って進むジグザグな形状になっている。何度目かの往復で木の隙間から白い建物が見えたが、歩く距離に対してなかなか高度が上がらず、着くころにはかなり疲労が溜まっていた。
神社は想像より一回り大きな大社造で、白塗りの立派なものだった。目立った劣化も見えず綺麗な外観で、金具なども錆びていない。
観察していると、一人の老婆が中から現れた。手拭いとたらいを手にしている。掃除をしていたのだろう。俺の視線に気づくと一瞬、驚いた顔をしたが、すぐ笑顔になって神社の話をしてくれた。
彼女の話によれば、この場所には元々、由緒正しい神社が建っていたそうだが、十年ほど前に焼けてしまったため、新たに再建したそうだ。建て直したとあっては、過去の伝承に関してのヒントは得られそうにない。帰りの船の時間も近づいて来たので、諦めて下山する。
山を降りるとき、途中でずるり、ずるり、となにかを引きずるような音が聞こえた。音のした方向を注意して見ると、山道からすこし離れた木の枝に、ひと抱えもあるような大きな白蛇がぶら下がっているのが見えた。あまりの迫力に驚き、もう一度目を凝らすと白蛇の姿はどこにも見えず、引きずるような音も聞こえなくなっていた。あれは一体なんだったのだろう。
【追記】アオダイショウは最大全長2〜2・5メートルで、3メートルを超えた個体の記録もある。さらに樹上性の傾向が強いため木に登ることも多い。俺が見た白蛇はアルビノのアオダイショウとして説明がつく。しかし夕暮れ時に離れていたのにも関わらず、蛇の色だけ、はっきりと白だと認識できたのはなぜだろう?
●●島の産業には古くは黒曜石の産出などがあったらしいが、最近では主に水産業へ舵取りをしたという。港にはそれらしい漁船が何隻か停泊しているのが見える。
町を構成する建物のほとんどは木製の日本家屋で、ところどころに植えられた満開の桜と相まった景色は、まるで昔話の絵本のようだ。コンクリート製の建物もちらほらあるが、そのほとんどは壁が黒ずんでいたりと老朽化が目に見える。
ホラー映画に出てくるようなおどろおどろしい因習村を想像したが、正反対の爽やかな印象。歴史のある島だけあって、観光施設もほどほどに充実していた。
最初に訪れたのは郷土資料館。比較的新しい建物で、中を見て回るのに二〇分ほど掛かった。展示の説明には、大化の改新から近代まで大まかに島の歴史が綴られていたが、例の室町時代の期間は空白で、代わりに文化面を押し出した内容で埋められていた。『月引三人衆』の写真パネルもあったが、観光向けの簡単なもので特にめぼしい情報は得られなかった。
次に宿泊施設を巡った。警察関係者として振る舞い、郷土資料館で起きた古書窃盗事件の捜査だと伝えて、ここ半年の顧客名簿情報を提供してもらった。総当たりで四軒目、寂れた和風旅館でようやく当たりを引く。
“令和一年十一月二十日……草間賢治”
女将に話を聞くと、久しぶりのお客だから印象に残っていたようで、その時のことを色々と思い出して教えてくれた。
最後に、町はずれの山へ向かう。この山には神社があり、明言されていないが『いとまじ様』を祀っていると思われる。なにか手掛かりが見つかるはずだ。
神社までの道案内などはなく、地図で道のりを確認してから向かう。山に入ると、山道には桜の花びらが白く敷き詰められていた。吉田死刑囚が花見をしたのは、おそらくこの山なのだろう。
傾斜が急なので、登山道は山を何度も横切って進むジグザグな形状になっている。何度目かの往復で木の隙間から白い建物が見えたが、歩く距離に対してなかなか高度が上がらず、着くころにはかなり疲労が溜まっていた。
神社は想像より一回り大きな大社造で、白塗りの立派なものだった。目立った劣化も見えず綺麗な外観で、金具なども錆びていない。
観察していると、一人の老婆が中から現れた。手拭いとたらいを手にしている。掃除をしていたのだろう。俺の視線に気づくと一瞬、驚いた顔をしたが、すぐ笑顔になって神社の話をしてくれた。
彼女の話によれば、この場所には元々、由緒正しい神社が建っていたそうだが、十年ほど前に焼けてしまったため、新たに再建したそうだ。建て直したとあっては、過去の伝承に関してのヒントは得られそうにない。帰りの船の時間も近づいて来たので、諦めて下山する。
山を降りるとき、途中でずるり、ずるり、となにかを引きずるような音が聞こえた。音のした方向を注意して見ると、山道からすこし離れた木の枝に、ひと抱えもあるような大きな白蛇がぶら下がっているのが見えた。あまりの迫力に驚き、もう一度目を凝らすと白蛇の姿はどこにも見えず、引きずるような音も聞こえなくなっていた。あれは一体なんだったのだろう。
【追記】アオダイショウは最大全長2〜2・5メートルで、3メートルを超えた個体の記録もある。さらに樹上性の傾向が強いため木に登ることも多い。俺が見た白蛇はアルビノのアオダイショウとして説明がつく。しかし夕暮れ時に離れていたのにも関わらず、蛇の色だけ、はっきりと白だと認識できたのはなぜだろう?
