応永二〇年 一月二日
 付き人の男から頼まれて、先日産まれた件の《白子(しらこ)》を診る運びとなった。内密で、と金を渡されたので、この記録は思い返して秘密裏に書いている。

 性別、男。健康状態は良好。母体の栄養失調を考えると、この子が母親の栄養を(うば)っていたのではないかと思えるほどだ。
 なんといっても特徴的なのはあの真っ白な肌や髪だろう。本州で《白人(しろひと)》と呼ばれる奇病の患者の話を聞いたことがある。にわかに信じがたかったが、目の当たりにしては信じざるを得ない。この胎児(たいじ)は例の奇病を先天的に(わずら)っていると考えられる。

 占いの婆が「白蛇様じゃ日の御子じゃ」と騒いだために、昨日から島民のほとんどが寺のお参りに群がっている。もし奇病のことが知れてしまえば、島民は手のひらを返してあの子を(さら)(もの)にするかも知れない。このことは胸の内に秘めておく。
 なんの信仰もないこの島を活気づけてくれると思えば、今のまま成り行きに任せるのがいいだろう。