あれからなんとか、手塚の火事について情報を集めることができた。あらゆるツテを頼り、方々(ほうぼう)に借りをつくってしまったが、背に腹はかえられない。
 手元にあるのは、火事の()(あと)から回収された彼女の荷物と、資料のコピー。大体はすでに共有されているものだったが、その中に彼女の日記を見つけた。焦げてはいるが重要な手掛(てが)かりだ。
 火事については警察の捜査で、電気ストーブによる出火が直接の原因と判明した。ストーブの送風口に、小さな焦げ跡が見つかったそうだ。大きさはちょうど化粧に使うコットン程度のサイズで、布か木製の小物(こもの)が送風口を(ふさ)いだ結果、熱を()発火(はっか)したと考えられている。
 手塚の首に巻かれていたロープはナイロン性で、一部が熱により溶けていた。もし本当に首を吊っていたのなら、火事のおかげで彼女は縊死(いし)せずに助かったと言える。

 事故のことを考えるのはこのくらいにしておこう。手塚が意識を取り戻せば、おのずと全容(ぜんよう)は判明する。俺の仕事は、あいつが目を覚ましたときに《いとまじ》の呪いなんてないと教えてやることだ。
 日記によれば、俺に隠れて親父(おやじ)から《いとまじ》についての意見を聞いたらしいが、どこを探しても肝心(かんじん)な取材のメモは見つからなかった。気が進まないが、直接確認しに行くほかなさそうだ。