警察から電話がきて、手塚が火事に()って重体だと告げられた。彼女の親族と連絡が取れなかったため、スマホの緊急(きんきゅう)連絡先(れんらくさき)に設定されていた俺の番号に連絡したらしい。
 ひとまず病院に向かい、包帯だらけの女性が手塚(てづか)明日菜(あすな)本人(ほんにん)であることを確認する。

 担当の刑事から、近ごろの彼女の様子に変化はなかったか質問を受けた。発見当時、首にロープが巻かれており、首吊りを(こころ)みた疑いがあるとのことだった。しらを切って病院をあとにする。
 一体なんなんだ。火事? ただの偶然にしては間が悪すぎる。それに、首吊り未遂(みすい)……いや、なにかの間違いだ。あいつは、明日菜はそんなことをするやつじゃない、はずだ。
こんなことになるなら、あのとき腹を割って話しておけばよかった。
 彼女の言葉が耳の中でこだまする。「史料を読み解いたりはできるくせに、他人の行動とか、今を生きている人の感情については無頓着」……その通りだ。《いとまじ》の秘密は(おお)いに気になるが、どれだけ考えても、酒井刑務官や彼女がそれを怖がる理由が、俺には一向(いっこう)に理解できない。呪いなんて、あるはずがない。

 だが、もしその恐怖心が一連(いちれん)の悲劇を引き起こしているのなら。俺が証明してやる。そんな因果(いんが)はないと。必ず《いとまじ》の意味を読み解いて、正面から、その力をひっぺがしてやる。