10番 砂山凪砂

夜のターンが終わり全員が2年1組に集まる。
しかし、理仁はいつになっても来なかった。
「昨晩の犠牲者は理仁さんです。それでは追放する人について話し合ってください」
先程と同じように話し合いが始まる。
「理仁が殺されたのか・・・・・・」
「悲しんでるは暇はないよ。早く人狼を見つけ出してゲームを終わらせよう」

早く人狼を見つけてなんて言ってるけど、結局有力な情報は何一つ出ない。
結局さっきと何も変わらないままだ。
このままじゃ着々と市民の数が減り、人狼の勝ちだろう。
私はさっきのターンを思い出す。
いつも結城に虐められていた康介が、自分の役職を利用して結城に復讐をしたこと。
この人狼ゲームはそう言うことをするために行われているんじゃないだろうか。
さすがにそれは考えすぎか。

だけど、私にもこのクラスの中に大嫌いな人がいる。
室岩朱里。彼女とは小学校からの付き合いである。
そして私には中学の時に付き合ってる人がいた。
朱里にはいつも相談して話を聞いてもらっていた。
心から信頼していたし、大好きな親友だった。
それなのに、ある日私が目撃したのは私の彼氏の家に入っていく、朱里だった。
調べていくと、彼氏と朱里は私たちが付き合う前から付き合っていたらしい。
私は心底落胆した。
大好きだった2人に裏切られたのだから。
その日から私は朱里に心から死んで欲しいと思っていた。

さっきの康介の立ち回りを見て分かった。
これも何かの縁だろう。
私の役職は"恋人"というもの。
紙に書かれていた内容は、
『第3陣営
最後まで2人とも生きていれば勝ち。
どちらかが死んだ場合、夜のターンにもう片方も死亡』
その次に書いてある言葉を見て、私はその時絶望した。
『相方は室岩朱里』
私が死んで欲しいと思った相手、朱里と私はペアだった。
この時点で私には2つの選択しか無かった。
──朱里と共に2人で生き残る
──朱里と共に死ぬ
私はそんなの迷う余地なんてなかった。

「私から1ついい?」
私の声にみんなが耳を傾ける。
「私の役職は恋人。内容は第3陣営で最後まで生き残ったら単独勝利になる」
私の発言にみんなはぽかんとしていた。
「えそれって言ったらダメなんじゃ」
飛鳥は心配するように私に言う。
彼女は優しいから心配してくれたのだろう。
もし、私たちが勝っていたら彼女たちは死んでしまっていたんだ。
私みたいな人が生き残るより、飛鳥みたいな人が生き残る方がいいよね。
私は朱里の顔を覗く。
朱里はもちろん呆然としていた。
だって黙ってれば勝てたかもしれないのに。
勝機を潰されて彼女は今どんな気持ちだろう。
だけど彼女がさらに絶望するのはこれからだから。

「みんなお願い。朱里を追放して欲しいの」
私は朱里にされた行為をみんなに打ち明けた。
思い出すだけでも吐き気がする。
でもこれでいい。これで朱里に対するみんなからの評価は下がるだろう。
「凪砂あんたふざけないでよ! あんたが言わなければ二人で生き残れたかもしれないのに、自分が何したか分かってるの!?」
朱里はとうとう本性を露にした。
みんなの前だと言うのにも関わらず、大声で私に怒りをぶつける。
「私はどうだっていいよ。朱里には分かんないよね。あの時の私の気持ちなんて!」
分かるはずがない。分かって欲しくなんてない。
あの時の私の気持ちを。どれだけ私が絶望したのかを。

「一番信じていた人に裏切られ、大好きだった人にも裏切られた私の気持ちなんて分かるはずないでしょ!」
「はぁ、もうどうだっていいよ。私が死ねばあんたもどうせ死ぬ。好きにしなさい」
その時、朱里の中の何かが切れたのだろう。
彼女はもう全てを諦めていた。
これでいいんだ。私はこうなることを望んでいたから。

「それでは追放する人を選んでください」
黒田さんの掛け声で、追放する人を一斉に指さす。
もちろん満場一致で朱里に票が入っていた。
「それでは朱里さんを追放します」
「殺される前に一つだけ言っておくよ。お前も直ぐに死ぬからな!」

──バンッ!
一発の銃声の後、彼女は地面に倒れた。
目の前には大好きだったはずの親友の死体。
一番死んで欲しいと思っていた人。
やっと死んで嬉しいはずなのに・・・・・・
なのに、どうして・・・・・・
涙が溢れるのだろう。

死亡者
室岩朱里