文化祭が終わるとお祭りムードからガラッと受験モードになり、特に3学年はピリピリした空気に包まれていた。
受験に関する確認事項に受験料、入学金、授業料……調べるのも大変だけれど親に相談することにも気を遣う。
そうして準備を進めていって迎えた二者面談で意図もせず自己推薦の打診を受けた。
「夏の作品も大賞だし、文化祭のパフォーマンスも感動したぞ~。良いアピールになると思うんだ。挑戦してみたらどうだ?」
「……あ、えっと、考えてみます」
担任の方が乗り気で私はというと気持ちとしては半分半分だった。確かに文化祭から昂ぶった心の内はまだ燻っている。何でもできるような根拠のない自信さえポンッと飛び出しそうだ。
でも……
面談重視の選考は苦手意識が強いし、名門なので志望している学校だが、大都市にあって実家からは遠いうえ授業料が高い。
迷っているまま両親に打ち明けると……
「やってみなよ!」と母。
「挑戦で合格したら凄い事だぞ」と父。
目を凝らして見つめたオーラにも言葉通り、二人は星屑を光らせて私に期待をこめていた。
私の心は一気に燃え上がってやる気に満ちた。自分の中にこれほど熱い気持ちが生まれるとは思いもせず……
もしかすると葵くんの影響かな?
そういえば進路の準備でしばらく会ってない。文化祭までは毎日一緒にいる時間がたくさんあったのに。
こんなふうに、離ればなれになっていくんだろう……
葵くんはもう進路を決めたのかな?
「―――俺? やっぱ大学かな~。まだ準備も整ってないけど」
週イチの英語授業で私達は久し振りに話をすることができた。後ろの席に体を向けて座り私が葵くんに質問すると、眠たそうな声でちゃんと答えてくれた。
A組じゃないのに大学を志望するなんてすごいな。
でも本気を出したら優秀なんだろう。
けれど、ちょっと……大丈夫かな?
葵くんは会わない間にオーラが青くなっていて、疲れているのかもしれなかった。バイトも続けているようで年末までは受験のためにも稼ぐそうだ。
私も進路状況を伝えると自分の話より真剣に聞いてくれて、授業終わりにはエールをくれた。
「真白は推薦頑張れよ! 絶対上手くいくからな!」
なぜか葵くんにそう言われると不思議と安心できたんだ―――。
慌ただしく出願を済ませ試験日まで一生懸命対策を考えた。進路指導員に相談をしたり、面接の講習や個別練習にも励んだ。積極的に前向きに取り組めたのは、『絶対上手くいく』と心で唱えていたからだろう。
「―――県立東川高校、大井田原真白です」
緊張の受験会場。始発の電車でJRに乗り継ぐと乗り換えをして新幹線に地下鉄。着いただけで少しふらふらした。田舎の自然に慣れていると都市に出ただけで疲労する。
朝の通勤ラッシュ時間帯で人が多かったのでオーラも色々様々見えてしまった。
モチベーションを保つのに精一杯。緊張を溶かす術はなかった。
「私は今まで――――――」
自己PRに志望動機は200回位練習しただろうか。
入室寸前まで繰り返していたし、スラスラと発言できたと自己分析した。
構えていたより面接官の口調は柔らかく、地元の自然や文化祭のパフォーマンスについても受け答えできた。
「コンクールの受賞歴が素晴らしいですね」
面接官の二人が目配せしてうなずきながら話す。オーラも穏やかで私はその感触に、ひと安心へ気持ちが傾いてホッと息をした。
しかし……
「絵を描く上で特別に意識していることは?」
「はい。それは被写体の持つオ……」
オーラ、が喉でつっかえた。
これは言ったら駄目なのではないか、一瞬の戸惑いがそれを掴んで喉元で留まらせる。
「どうしました?」
「あ、あの……」
共感覚、理解して……もらえる?
私は見えたままを、絵に描いているだけ。
どうしよう、言ってもいいのかな?
……はっ!
面接官のオーラにモヤッと薄暗い煙が湧き始めて……私に対する不信感だと悟った。
凝視するほどに突き刺さる鋭い眼光がより私への疑いの目に見えて―――。
さっきまで落ち着いていたオーラが不安定に、灰色を帯びている。
私が上手に答えられないから。
もう、駄目だ……
私に下だされたその色に目は塞ぎがちになり背筋も縮こまってしまった。「難しかったですね。では……」と面接官は私の答えを聞かずして次に進めた。
―――その後のやり取りはあまり覚えていない。
質問されて気づいたのは、自分の能力の無さ。モデルのオーラが一際美しかったから、奇跡的な絶景を見る幸運に恵まれたから、ありのままを描いた絵が評価されたわけで……私は模写が得意なだけだ。
オーラが見えなくって共感覚が無かったら―――まともに絵も描けないんだろうな。
自信て……簡単に折れる。
自分の無力さと反省だらけの心労を抱え、自己推薦の受験は終わった。結果は、待たずともわかりきっていた。
案の定、不合格。
失敗した自覚があったから落ち込んだりはしなかった。都会に憧れもあったけれど、通勤ラッシュの電車は苦しかったしビルだらけの街並みも窮屈に感じた。人が多いのも苦痛な時もある。
理想と夢に突きつける現実、私は痛感したのだった。
苦い経験だったけれど踏ん切りはついていて、当初の予定通り一般入試で勝負。元々考えていた隣県の専門学校に決めて、受験予定表を再提出した。
11月初旬。
再び美術室へ通う放課後。文化祭以来ほとんど足を運んでいなかったが、次は実技もあるので腕が鈍らないように着彩の練習をする。元の学校生活に戻った感じで染み染みといつもの席に座ってキャンバスに向かっていた。
そこへ……
葵くんが私の受験結果を心配してくれて訪ねてきた。不合格だったことを伝えると、私以上に残念がってこっちがびっくりした。
「そっかぁ……頑張ったのにな」
労いなのか私の頭をポンポンとして、眉尻を下げ本気で悲しそうな顔をする。
優しい葵くんの大きな手に包まれると、たくさん考えて疲労していた頭が、ふわっと春の風をうけたみたいに心地良いほど軽くなった。
同情なんだろう……全然それでもいい。
葵くんの手は私に勇気をくれる。また頑張ろう。
私は元気が出てきて笑顔を送りたくなるのだけれど、葵くんの表情は晴れなかった。
純平は推薦で農業の専学に合格した、そんな話題にも「ホント良かった。純平、家業継ぐの夢だって言ってたから」安堵の溜息と目元を緩ませるが、向日葵のような明るさは見れない。
影があるような青色のオーラを漂わせて……疲労が限界に達しそうな危うい色味を放っている。受験生だからか同じオーラを持つ人も増えているけれど、その暗いアオは私の心に少し引っ掛かった。
葵くんも何か気に病む事があるのだろうか?
このときの予感を、私は後悔することになる―――。
受験に関する確認事項に受験料、入学金、授業料……調べるのも大変だけれど親に相談することにも気を遣う。
そうして準備を進めていって迎えた二者面談で意図もせず自己推薦の打診を受けた。
「夏の作品も大賞だし、文化祭のパフォーマンスも感動したぞ~。良いアピールになると思うんだ。挑戦してみたらどうだ?」
「……あ、えっと、考えてみます」
担任の方が乗り気で私はというと気持ちとしては半分半分だった。確かに文化祭から昂ぶった心の内はまだ燻っている。何でもできるような根拠のない自信さえポンッと飛び出しそうだ。
でも……
面談重視の選考は苦手意識が強いし、名門なので志望している学校だが、大都市にあって実家からは遠いうえ授業料が高い。
迷っているまま両親に打ち明けると……
「やってみなよ!」と母。
「挑戦で合格したら凄い事だぞ」と父。
目を凝らして見つめたオーラにも言葉通り、二人は星屑を光らせて私に期待をこめていた。
私の心は一気に燃え上がってやる気に満ちた。自分の中にこれほど熱い気持ちが生まれるとは思いもせず……
もしかすると葵くんの影響かな?
そういえば進路の準備でしばらく会ってない。文化祭までは毎日一緒にいる時間がたくさんあったのに。
こんなふうに、離ればなれになっていくんだろう……
葵くんはもう進路を決めたのかな?
「―――俺? やっぱ大学かな~。まだ準備も整ってないけど」
週イチの英語授業で私達は久し振りに話をすることができた。後ろの席に体を向けて座り私が葵くんに質問すると、眠たそうな声でちゃんと答えてくれた。
A組じゃないのに大学を志望するなんてすごいな。
でも本気を出したら優秀なんだろう。
けれど、ちょっと……大丈夫かな?
葵くんは会わない間にオーラが青くなっていて、疲れているのかもしれなかった。バイトも続けているようで年末までは受験のためにも稼ぐそうだ。
私も進路状況を伝えると自分の話より真剣に聞いてくれて、授業終わりにはエールをくれた。
「真白は推薦頑張れよ! 絶対上手くいくからな!」
なぜか葵くんにそう言われると不思議と安心できたんだ―――。
慌ただしく出願を済ませ試験日まで一生懸命対策を考えた。進路指導員に相談をしたり、面接の講習や個別練習にも励んだ。積極的に前向きに取り組めたのは、『絶対上手くいく』と心で唱えていたからだろう。
「―――県立東川高校、大井田原真白です」
緊張の受験会場。始発の電車でJRに乗り継ぐと乗り換えをして新幹線に地下鉄。着いただけで少しふらふらした。田舎の自然に慣れていると都市に出ただけで疲労する。
朝の通勤ラッシュ時間帯で人が多かったのでオーラも色々様々見えてしまった。
モチベーションを保つのに精一杯。緊張を溶かす術はなかった。
「私は今まで――――――」
自己PRに志望動機は200回位練習しただろうか。
入室寸前まで繰り返していたし、スラスラと発言できたと自己分析した。
構えていたより面接官の口調は柔らかく、地元の自然や文化祭のパフォーマンスについても受け答えできた。
「コンクールの受賞歴が素晴らしいですね」
面接官の二人が目配せしてうなずきながら話す。オーラも穏やかで私はその感触に、ひと安心へ気持ちが傾いてホッと息をした。
しかし……
「絵を描く上で特別に意識していることは?」
「はい。それは被写体の持つオ……」
オーラ、が喉でつっかえた。
これは言ったら駄目なのではないか、一瞬の戸惑いがそれを掴んで喉元で留まらせる。
「どうしました?」
「あ、あの……」
共感覚、理解して……もらえる?
私は見えたままを、絵に描いているだけ。
どうしよう、言ってもいいのかな?
……はっ!
面接官のオーラにモヤッと薄暗い煙が湧き始めて……私に対する不信感だと悟った。
凝視するほどに突き刺さる鋭い眼光がより私への疑いの目に見えて―――。
さっきまで落ち着いていたオーラが不安定に、灰色を帯びている。
私が上手に答えられないから。
もう、駄目だ……
私に下だされたその色に目は塞ぎがちになり背筋も縮こまってしまった。「難しかったですね。では……」と面接官は私の答えを聞かずして次に進めた。
―――その後のやり取りはあまり覚えていない。
質問されて気づいたのは、自分の能力の無さ。モデルのオーラが一際美しかったから、奇跡的な絶景を見る幸運に恵まれたから、ありのままを描いた絵が評価されたわけで……私は模写が得意なだけだ。
オーラが見えなくって共感覚が無かったら―――まともに絵も描けないんだろうな。
自信て……簡単に折れる。
自分の無力さと反省だらけの心労を抱え、自己推薦の受験は終わった。結果は、待たずともわかりきっていた。
案の定、不合格。
失敗した自覚があったから落ち込んだりはしなかった。都会に憧れもあったけれど、通勤ラッシュの電車は苦しかったしビルだらけの街並みも窮屈に感じた。人が多いのも苦痛な時もある。
理想と夢に突きつける現実、私は痛感したのだった。
苦い経験だったけれど踏ん切りはついていて、当初の予定通り一般入試で勝負。元々考えていた隣県の専門学校に決めて、受験予定表を再提出した。
11月初旬。
再び美術室へ通う放課後。文化祭以来ほとんど足を運んでいなかったが、次は実技もあるので腕が鈍らないように着彩の練習をする。元の学校生活に戻った感じで染み染みといつもの席に座ってキャンバスに向かっていた。
そこへ……
葵くんが私の受験結果を心配してくれて訪ねてきた。不合格だったことを伝えると、私以上に残念がってこっちがびっくりした。
「そっかぁ……頑張ったのにな」
労いなのか私の頭をポンポンとして、眉尻を下げ本気で悲しそうな顔をする。
優しい葵くんの大きな手に包まれると、たくさん考えて疲労していた頭が、ふわっと春の風をうけたみたいに心地良いほど軽くなった。
同情なんだろう……全然それでもいい。
葵くんの手は私に勇気をくれる。また頑張ろう。
私は元気が出てきて笑顔を送りたくなるのだけれど、葵くんの表情は晴れなかった。
純平は推薦で農業の専学に合格した、そんな話題にも「ホント良かった。純平、家業継ぐの夢だって言ってたから」安堵の溜息と目元を緩ませるが、向日葵のような明るさは見れない。
影があるような青色のオーラを漂わせて……疲労が限界に達しそうな危うい色味を放っている。受験生だからか同じオーラを持つ人も増えているけれど、その暗いアオは私の心に少し引っ掛かった。
葵くんも何か気に病む事があるのだろうか?
このときの予感を、私は後悔することになる―――。



