取材の都合上、●●家、と黒塗りにさせていただきましたが、実際の家名はかなり珍しいものでした。日本広しと言えどもあの名字はあの家ぐらいなんじゃないでしょうか。
 ただその珍しさが逆に調べやすくもありました。

 長年かけて築き上げた探偵の人脈を駆使してみたところ、案外、簡単に家系図の最後に書かれていたお婆さんに行き着くことができました。
 彼女がまだ生きていたのは運が良かったです。家系図はお返しできましたし、向こうも喜んでくれたので。

 ただちょっとですね、やっぱりあの家系なんかいろいろとおかしいというか、怪しいんですよ。
 聞きたいですよね。吹聴しないでくださいよ。私の信用にかかわりますので。

 さっきお婆さんは私が家系図を持って来たことを喜んでくれたって言ったじゃないですか。でも彼女、私が来るのをわかっていたように準備された客間に案内したんです。

 それで家系図を渡したところ、自分が子供の頃、戦争の混乱の最中に紛失したものだって言うんですよ。

 でもそれっておかしいじゃないですか。だってそれなら紙が70年代~80年代のものとか墨汁が現代のものと同じとか、いろいろ矛盾しています。

 家系図って時系列通りのはずなのに、なんかもう時間軸がぐちゃぐちゃになっているというか……。いったいなにが本当でなにが嘘なのかわからなくなりました。

 ……あの、せっかく取材に来てくれて悪いんですが、そろそろこの辺で終わりにしませんか? やはり他人の家のことをあれこれ話すのはよくなかったです。ちょっと肌寒いですし、あなたも少し顔色が悪いですよ。

 え? じゃあ最後に●●家が家系図のあとどうなっているのかを知りたいですって。仕方ありませんね。メモ帳に書くとこんな感じです。


 A子――B子――C子――D子


 A子がお婆さんです。その後の家系図は女系四代になっているとこんなふうに家系図の続きに書き足して教えてくれました。こころなしか文字は初代と瓜二つでしたがたぶん気のせいでしょう。
 はい? 本当にこのとおりなのか、ですって? ええ、そうですよ。縦一直線です。


 A子
  |――B子
 A男   |――C子
     B男   |――D子
         C男


 こうではないのか、ですって?
 違いますよ。本当に、


 A子――B子――C子――D子


 だったんです。全員、子供を産んでから離婚したとかそういうことでもないみたいです。でも夫はいるみたいな口ぶりなんですよね。
 偶然、三人の夫は早くに亡くなってしまったのかもしれません。地元で有名ないわくつきの家系のようですし、そういう話は昔なら珍しくありません。

 とはいえ死別なら死別で、家系図に夫を載せないのは奇妙な話です。なぜ彼女たちが三人の夫を書かなかったのかはわかりません。あれではまるで最初からいないみたいじゃないですか。それとも三代に渡って托卵――んんっ、失礼。不義を働いたのか。

 他人の家のことですし、ここまでにしておきましょう。すべては憶測です。
 個人情報でもありますし、くれぐれもこの話はご内密にお願いします。