え? ああ、●●さんちですか? 知っていますよ。このあたりでは有名な家なので。

 どういう意味で有名か、ですか。
 いやだってあなた、●●さんちがどういう家が知ってここへ来たんじゃないんですか?
 違う。へえ、よく知らないのによくこんな辺鄙なところまでたどり着けましたね。

 あ、もしかして探偵さんだったりします? いるんですよね、たまに。人を使ってあの家を調べようとする怖いもの知らず。なんてね、冗談ですよ。
 あなたは用事があって訪れる予定だったんですね。これは失礼しました。

 でもそれにしてはほんとになにも知らないようで。
 はあ。だから教えてほしいと。

 ええっとまあ、なんて言えばいいんでしょうかね、村では厄介者にされていると言いますか……怖がられていると言いますか、まあはい、そんな感じの家です。

 え? なんで怖がられているか、ですって?
 そりゃあだって、なにもないところで誰かと話していたり、知るはずのないことを言い当てられたりしたら気味悪いじゃないですか。

 霊感がある血筋という意味ではこの村では有名なんですよ。といっても、もともとは戦時中の疎開でこっちに来たとかなんとか。

 私も子供の頃はA子さんによく、この日はここに行くなと言われましたよ。でも子供なんで言われてもすぐに頭から抜け落ちてその日その場所に行ってしまうんです。そうするとことごとく怪我をしました。

 それなら良い家ではないか、ですって?
 まあ確かに悪い人たちではないですけど、でもやっぱり怖いんですよ。学校でも気づいたらB子が背後に立っていたり、くすくす笑っていたんですから。

 それにあの家、男が……ああいや、なんでもありません。
 証拠もないのに憶測でものを言ってはいけませんよね。

 ただあなた、おひとりですか?
 そうですか。ひとりで来たと。いえね、やはり女しかいない家に男が入っていきますとあまりよくは見えないじゃないですか。
 いやいや、私はそこまでは言ってませんよ。あなたが勝手にそう解釈しただけです。

 まあその霊感を頼っておかしな依頼をしに来る人もいるそうですし。
 それにあの家、デイトレって言うんでしたっけ。株とかでたんと儲けているって話なんでお金には困っていないでしょうから。

 あのぅ、悪いんですがもうよしませんか、あの家について話すの。なんかちょっと寒気がしてきました。
 だから嫌なんですよ、あの家のことを他人にあれこれ話すの。

 どうせ用事があるのでしょう。だったらこんなところでコソコソ嗅ぎ回っていないで直接言って話してくればいいじゃないですか。自分で見て判断するのが一番早いです。

 なんですこの千円?
 お礼?
 いや、いいですって。こんなのもらったらそれこそ悪いことが起きそうなんで。

 では私はこれで失礼させてもらいます。
 ああ、くれぐれも私のことはしゃべらないでくださいね。