W大学文学部史学科 三井歩ブログ『歴史家の散歩道』 Vol.29
非常勤講師・三井歩が新入生に歴史学の楽しさをレクチャー
「除籍謄本の取り寄せ・家系図の作成」
三井:今回からは、実際に先祖のことを知りたいという方と一緒に調査を進めてみましょう。分かりやすいように、会話形式でデモンストレーションを行います。
挑戦してもらうのは、私の友人で、出版社の編集者である四ツ谷氏です。
四ツ谷:よろしく。友人のよしみで丁寧に教えてね。
三井:分かった。ここからはいつも通りの感じでいこう。四ツ谷は家族とか興味ないと思ってたよ。
四ツ谷:そうなんだよ。うちの家族って、本当に親戚関係に関心がないみたい。伯父の葬式にも、ぜんぜん親戚が来なかったくらい。
三井:そんな四ツ谷がなぜ調査を?
四ツ谷:この前、仏壇を掃除してたら、謎の古文書を見つけたんだ。どうやら代々伝わっていたものっぽいし、もしかしたら歴史ある家なのかもと思って調べたくなったんだ。
三井:なるほど。ちょっと見せてくれ。「そうびえん?」「神ハ天地?」これは不思議な史料だな。宗教に関係する史料なんだろうけど……。上手くいけば、この史料の正体も分かるはずさ。
四ツ谷:あ、やっぱり「そうびえん」なんだ。意味は分かる?
三井:まったく分からないな。宗教は詳しくなくて。
ところで、調査を始める前にひとつ大事なことを確認しておきたいんだ。たとえば、先祖に関して嫌なことが判明したとして、気にしない覚悟はあるかい?
四ツ谷:うん。別に気にしないよ。
三井:良い答えだ。では、まず聞き取りから始めさせてくれ。
最初にやるべきことは、除籍謄本の取り寄せ。
除籍ってのは、つまり戸籍の抜け殻。その戸籍に属している人が死んだり、結婚したりして、全員が抜けてしまったものを指す。
これで、だいたい幕末~明治初年生まれの先祖までは、ほぼ確実に分かる。
除籍を取り寄せるには、先祖の名前と本籍地と自分との続柄証明が必要。
一番古い先祖について分かる?
四ツ谷:おじいちゃん。本籍は中国地方の離島K島って聞いてる。実は俺の本籍もその島にあるんだよね。行ったこともないから、なんか不思議な心地がしてた。
三井:離島か! いいね。本籍地が分かれば上出来だ。除籍は取り寄せられる。ところで、おじいさんは何してたの?
四ツ谷:会社員。父親もコネで同じ会社に入ってる。
三井:会社員じゃ先祖の手掛かりにはならないな。まあ、とりあえず除籍を取り寄せてみようか。あとは、おじいちゃんと仲良いなら、ぜひ先祖のことも聞いておいてくれ。
四ツ谷:分かった。すぐに連絡いれとくよ。
三井:さて、本籍地の役所のホームページに行けば、記入すべき申請書が見つかる。除籍の取り寄せは一通750円。定額小為替と返信用の封筒を送るんだ。あるだけ取り寄せることになるから、750円×5枚くらい送付して、可能な限り古い除籍まで送ってもらうよう頼むと良い。
申請書には理由を書く欄があるけど、「先祖供養のため、遡れるだけ」と書くことをおススメしたい。あと定額小為替は郵便局で、平日日中にしか買えないから要注意。
四ツ谷:意外と面倒だな……。まあやってみるよ。
~手続き中~
四ツ谷:届いた。手書きだし、なに書いてるか分からん。
三井:素晴らしい。四ツ谷家のルーツはK島の「遠峰」という地域なのか。
除籍からは色々なことが分かるんだ。とにかく、除籍の情報をもとに、家系図に起こしてみるよ。
四ツ谷:おー。これが俺の家系図か。一番前の先祖はひいおじいさんの富次郎さんっていうんだね。
三井:そうだね。俺の感覚としては、もう少したどれる可能性があるんだけどね。だいたい幕末生まれまではいく。
四ツ谷:5通申請して5通届いたから、まだ残っているのかもしれない。追加で申請してみる。
三井:そうしてくれ。
家系図が出来たら、「親戚の名前」+「地域名」でググること。多少なりとも大きな家だったら、情報が出て来ることがある。この時は「Google Books」が重要。
四ツ谷:Google検索で名前を調べてたら引っかかったぞ! 大叔父が考古学者だったったみたいだ。書籍も出版してる。全然知らなかった……。
三井:大叔父って割と近い気もするけど、ほんとに家族のこと何にも知らないんだな……。四ツ谷家は、ちょっと不自然なくらい伝承がない。
四ツ谷:先祖が何かやらかして隠してるんじゃないかな(笑)
三井:大叔父さんの生まれは戦前でしょ? この時代に学者になれる人は、当然だが裕福な家の出であることが多い。こういう情報も立派な手がかりだ。
四ツ谷:しかも、台湾生まれのようだね。弟である俺の祖父も台湾生まれだ。
三井:当時、台湾は日本の植民地だったから珍しいことではないよ。
四ツ谷:四ツ谷家がK島を出た理由は気になるな。
三井:新天地を求めていたのかもしれない。生活水準はめちゃくちゃ上がるみたいだよ。
四ツ谷:なるほど。そこで良い生活ができて、息子が学者になれたのかもしれない。面白くなってきた。ひとまず大叔父さんの本を読んでみようかな。
三井:さっさとK島でフィールドワークもしたいところだ。
非常勤講師・三井歩が新入生に歴史学の楽しさをレクチャー
「除籍謄本の取り寄せ・家系図の作成」
三井:今回からは、実際に先祖のことを知りたいという方と一緒に調査を進めてみましょう。分かりやすいように、会話形式でデモンストレーションを行います。
挑戦してもらうのは、私の友人で、出版社の編集者である四ツ谷氏です。
四ツ谷:よろしく。友人のよしみで丁寧に教えてね。
三井:分かった。ここからはいつも通りの感じでいこう。四ツ谷は家族とか興味ないと思ってたよ。
四ツ谷:そうなんだよ。うちの家族って、本当に親戚関係に関心がないみたい。伯父の葬式にも、ぜんぜん親戚が来なかったくらい。
三井:そんな四ツ谷がなぜ調査を?
四ツ谷:この前、仏壇を掃除してたら、謎の古文書を見つけたんだ。どうやら代々伝わっていたものっぽいし、もしかしたら歴史ある家なのかもと思って調べたくなったんだ。
三井:なるほど。ちょっと見せてくれ。「そうびえん?」「神ハ天地?」これは不思議な史料だな。宗教に関係する史料なんだろうけど……。上手くいけば、この史料の正体も分かるはずさ。
四ツ谷:あ、やっぱり「そうびえん」なんだ。意味は分かる?
三井:まったく分からないな。宗教は詳しくなくて。
ところで、調査を始める前にひとつ大事なことを確認しておきたいんだ。たとえば、先祖に関して嫌なことが判明したとして、気にしない覚悟はあるかい?
四ツ谷:うん。別に気にしないよ。
三井:良い答えだ。では、まず聞き取りから始めさせてくれ。
最初にやるべきことは、除籍謄本の取り寄せ。
除籍ってのは、つまり戸籍の抜け殻。その戸籍に属している人が死んだり、結婚したりして、全員が抜けてしまったものを指す。
これで、だいたい幕末~明治初年生まれの先祖までは、ほぼ確実に分かる。
除籍を取り寄せるには、先祖の名前と本籍地と自分との続柄証明が必要。
一番古い先祖について分かる?
四ツ谷:おじいちゃん。本籍は中国地方の離島K島って聞いてる。実は俺の本籍もその島にあるんだよね。行ったこともないから、なんか不思議な心地がしてた。
三井:離島か! いいね。本籍地が分かれば上出来だ。除籍は取り寄せられる。ところで、おじいさんは何してたの?
四ツ谷:会社員。父親もコネで同じ会社に入ってる。
三井:会社員じゃ先祖の手掛かりにはならないな。まあ、とりあえず除籍を取り寄せてみようか。あとは、おじいちゃんと仲良いなら、ぜひ先祖のことも聞いておいてくれ。
四ツ谷:分かった。すぐに連絡いれとくよ。
三井:さて、本籍地の役所のホームページに行けば、記入すべき申請書が見つかる。除籍の取り寄せは一通750円。定額小為替と返信用の封筒を送るんだ。あるだけ取り寄せることになるから、750円×5枚くらい送付して、可能な限り古い除籍まで送ってもらうよう頼むと良い。
申請書には理由を書く欄があるけど、「先祖供養のため、遡れるだけ」と書くことをおススメしたい。あと定額小為替は郵便局で、平日日中にしか買えないから要注意。
四ツ谷:意外と面倒だな……。まあやってみるよ。
~手続き中~
四ツ谷:届いた。手書きだし、なに書いてるか分からん。
三井:素晴らしい。四ツ谷家のルーツはK島の「遠峰」という地域なのか。
除籍からは色々なことが分かるんだ。とにかく、除籍の情報をもとに、家系図に起こしてみるよ。
四ツ谷:おー。これが俺の家系図か。一番前の先祖はひいおじいさんの富次郎さんっていうんだね。
三井:そうだね。俺の感覚としては、もう少したどれる可能性があるんだけどね。だいたい幕末生まれまではいく。
四ツ谷:5通申請して5通届いたから、まだ残っているのかもしれない。追加で申請してみる。
三井:そうしてくれ。
家系図が出来たら、「親戚の名前」+「地域名」でググること。多少なりとも大きな家だったら、情報が出て来ることがある。この時は「Google Books」が重要。
四ツ谷:Google検索で名前を調べてたら引っかかったぞ! 大叔父が考古学者だったったみたいだ。書籍も出版してる。全然知らなかった……。
三井:大叔父って割と近い気もするけど、ほんとに家族のこと何にも知らないんだな……。四ツ谷家は、ちょっと不自然なくらい伝承がない。
四ツ谷:先祖が何かやらかして隠してるんじゃないかな(笑)
三井:大叔父さんの生まれは戦前でしょ? この時代に学者になれる人は、当然だが裕福な家の出であることが多い。こういう情報も立派な手がかりだ。
四ツ谷:しかも、台湾生まれのようだね。弟である俺の祖父も台湾生まれだ。
三井:当時、台湾は日本の植民地だったから珍しいことではないよ。
四ツ谷:四ツ谷家がK島を出た理由は気になるな。
三井:新天地を求めていたのかもしれない。生活水準はめちゃくちゃ上がるみたいだよ。
四ツ谷:なるほど。そこで良い生活ができて、息子が学者になれたのかもしれない。面白くなってきた。ひとまず大叔父さんの本を読んでみようかな。
三井:さっさとK島でフィールドワークもしたいところだ。