12月30日
年の瀬が迫るも、現在戦地に赴きたるため、寸毫も気は休まらず。G国は想像を絶するほど寒き国なり。注意せざれば、小便まで凍り付く。死ニマサル苦難。
開戦以来、しばらく苦戦を強いられるガ、ここしばらく戦況は好転したりと耳にす。僅かなれども休暇を与えられるか。

幸いにして、これまで我は無傷なるが、G国兵以外に恐ろしき存在アリ。第七師団の戦友・四ツ谷弾左衛門上等兵なり。彼奴の言動、極めて異常。顔は獣のゴトキ様相なり。挙動は人のさまを為しておらず。G国兵十人を銃殺し「軍の誉れ」と称賛されるが、彼奴は称賛に足る人間にあらず。否、わが軍に害をなす存在ナリ。

我、銃弾を受け逃走不能となりしG国兵を、自陣に引きずり込み、嬉々トシテ生きたまま両腕を切断する弾左衛門を目撃す。G国兵の断末魔の叫び、我が耳を離れず。ここ数日、夜も眠れず。G国兵の死体、毛虫の如くになり、肩口ヨリ血を流しながらしばらくのたうち回る。壮絶なり。ソノ際、弾左衛門の発する「そうびえんそうびえん」なる理解しがたき言葉を耳にす。これも耳から離れず。あまりの常軌を逸した様子に、上官飛んで来たりて、弾左衛門を制止したり。彼奴が軍の「誉れ」であるなど、笑止千万。早々に本国に送還すべきと存ず。

我、当日記を記しナガラ、独り野営地を抜け出す弾左衛門の姿を目にす。月明かりに照らされし弾左衛門の顔は、あまりに恐ろしく思わず戦慄せざるを得ず。危うく悲鳴をあげそうになるも、辛うじてコレを堪える。彼奴、如何なる理由にて外出するか、理解すること能わず。異様な死体が発見されぬことを願うばかりナリ。