明治二十年（１８８７）ごろより、Ｙ県K島においてフランス人宣教師を名乗るグエンという男がC教の布教活動を行っていると報告があった。我々は日本においてC教の布教活動を管轄しているが、いまだK島に布教使を派遣した事実は存在しない。当会に所属する信頼に足るフランス人宣教師をK島に派遣したところ、Ｃ教とは似ても似つかない奇怪な宗教行為に没頭する常軌を逸した様子の隻腕の男を発見した。ただちに応援を派遣し、事実関係を調査したところ、下記の事実が発覚した。

・グエンはフランス人ではなく、中国で苦力（肉体労働）をしていた越南国（ベトナム）出身者である。密航のうえ明治維新ごろにＫ島にたどり着いた。

・上記の理由により就労をしておらず、物乞いをしていたようだが、やがて宗教者の真似事を始めた。

・グエンはＫ島の在地信仰を土台とし、「海毛虫」なる醜い生物をご神体とする奇天烈な教義を生み出した。グエンは海毛虫のことを「ソウビエン」（「瘡ビゑん」とも記す）と呼んでいる。これは越南国（ベトナム）の言葉で海毛虫を指すようである。

・グエンは芋虫のような海毛虫の身体に、女の顔を描いた奇妙な絵をご神体として崇めている。

・海毛虫を呼び出す儀式として、信者たちを後ろ手に縛りあげ、意味不明な言葉を叫ばせながら海岸を疾走させている。地元住民のなかには、面白がってこれを受け入れる者もおり、村は尋常でないありさまである。

・捕獲した海毛虫を信者の手足に押し付け、意図的に中毒を起こすこともある。グエンはこれを神と同化するための儀式だと主張している。

・ほか「神ハ天地」なる、やはりC教からはかけ離れた箴言を伝える。

繰り返しになるが、グエンという男が布教しているのは、Ｃ教ではない。村民たちを洗脳し害をなす内容であるので、ただちに布教活動を辞めさせるべきだ。
K島民たちの身を案じ、即急に対応されることを望む。

明治二十四年（１８９１）五月十日　〇〇会　司祭長　▲▲▲▲
神祇官判事殿