遠峰村村長への書簡

一筆啓上いたします。
村長殿もご存じの通り、当四ツ谷家には子がなく、高利貸しを生業に相当額の資産を築いたにも関わらず、絶家になろうとしています。
かくなる上は近隣より養子を迎えようと考えていたのですが、聡明な男児が少なく、非常に気を揉んでおりました。

そんな折、当家屋敷前の海岸にて、齢三つくらいの男児が倒れているのを発見しました。連れ帰って介抱するうちに意識を取り戻したのですが、どうやら先日発生した海難事故の被害者であるようです。本来ならば、警察に届けるべきなのでしょうが、この折に当家にたどり着いたこと、この男児を養子にせよという天啓なのではないかと感じた次第です。

古来、我が島には漂流民を「富をもたらす存在」として神聖視する文化がございます。この男児は、きっと当家に幸福をもたらしてくれることでしょう。
つきましては、近日中に養子縁組の手続きをいたします。その際は、よろしく受理されますよう、お願い申し上げます。なお、その子は「キジマ ダンザエモン」と名乗っています。可愛くて利発な男児です。

明治十六年(1883)九月二十日

K島町歴史資料館にて発見