ボイスメモの書き起こし

ーー久しぶりだな。ちゃんと実家には顔出してるのか。大丈夫だよ。爺ちゃんはボケてなんていない。きっとあの嫁が余計なことを吹き込んだんだろう。

ーーああ、武尊はいい子だな。そうそう。爺ちゃんとお前は昔からそっくりだって言われていたからなぁ。ん? 鼻は似ていないぞ! 馬鹿なことを言うな!

ーーすまん。忘れてくれ。爺ちゃんのコンプレックスなんだ。
それで、話ってなんだ。この手紙を読んでほしい? 最近どんどん視力が下がってきてな。爺ちゃんもいい加減年だな。どれどれ……。

(紙ずれの音の後、十数秒の沈黙)

ーーお前、本当にK島に行ったのか? 先祖のことを調べるのは辞めろと前に言っただろ。

ーーだから、先祖のことは、爺ちゃんも何にも知らんよ。爺ちゃんの親父も熊本育ちだしな。墓だって見つからなかったんだろ。ウチの家系は親戚関係にみんな関心がないんだ。爺ちゃんとお前が仲が良いのが不思議なくらいだ。この坊主が何者だか知らんが、別の家と勘違いしてるんじゃないか。

ーー本籍地をK島のままにしてる理由か……。そりゃ変えるのが面倒だからだ。この家は賃貸だし、お前の両親が住む東京だって、なんの地縁もないマンションだろ。本籍地なんてそんなに頻繁に変えられるものじゃない。昔からK島だから、今もそのままってだけだ。

ーー爺ちゃんのじいさんのこと? これだけ答えたら、もう終わりにしてくれるのか。仕方ないな……。どうしようもないクズだったらしいぞ。それでばあさんは、じいさんを捨てて熊本の親戚宅に身を寄せたそうだ。厄介者扱いされたうえ、召使いみたいな仕事を強要されて辛かったらしい。みんな話したくないんだ。

ーーだから先祖の謎なんて知らん! 終わりだと言ったろ! 「親は親。俺には関係ない」ってお前もよく言っとったろうが。この手紙にも同じようなことが書いてあるじゃないか。

ーーいやいや、手紙の内容を真に受けてるわけじゃない。勘違いじゃなければ悪戯だな。悪趣味な坊主もいるもんだ。どこかに報告した方がいいんじゃないか?

ーー……もういいか。そろそろデイサービスの迎えの車が来る時間だ。

ーーまったく施設ってのは退屈だよ。まだまだ自分の足で歩けるのに、お前の両親に無理矢理通わせられてるんだ。「心配だから」って言うが、内心どうだか分からんな。金を払って面倒なことを押し付けてるだけじゃないかね。

ーーそういえば、最近施設でレクリエーションをやらされるんだ。認知症予防に効くらしいんだが、なんだかヘンテコなゲームでな、腕を後ろで……。

※これ以上の記録は不要と判断し、ボイスメモを終了とする。