ちょっとした興味本位から、私は自分の先祖のことを調べていた。
仕事で訪れた学会で知り合った友人の歴史学者・三井歩が、調査の過程を大学の授業で使いたいというので快諾した。結果的に、学生の何人かが興味を持ってくれたらしい。手助けになるような情報を寄せてくれた学生までいた。私の住む東京から、先祖の地・K島にまではるばる調査に行った身としては、いくらか報われた気分である。
ところが、現地調査では、四ツ谷家の墓を見つけることはできなかった。お寺が管理している過去帳さえ見つけることができれば、先祖調査は一気に進むのだが。
諦められなかった私は、四ツ谷家の家系図を書いて徳明寺というお寺への手紙に同封し、「過去帳の内容を教えてもらえませんか?」と尋ねてみた。
返事はないものかと思われたが、最近になってお寺から返信があった。
ところが、内容がどこかおかしい。
私は、ここに書かれていた「先祖のことを調べてはい
けない理由」に心当たりがない。住職は気を遣ってくれたつもりだろうが、この文面からは、私の先祖には何かネガティブな事実が伴っていると読み取れる。これが、四ツ谷家が島を離れる理由だったのだろうか。
今から思えば、三井は相当早い段階から何かを察していたのかもしれない。「先祖調べをしていてネガティブな情報にぶつかることはそう珍しくはない」と繰り返していたのは、何か良からぬことが発覚する気配を感じていたからか? 私は何が判明しても気にしないと答えた。だが、実際にその可能性に直面してみると、気持ち良いはずがない。
はたして、私の先祖は島内で忌み嫌われる人間だったのだろうか。何か悪いことをしたのだろうか。そういえば、K島の住民に「四ツ谷」と名乗った時の反応もどこか冷たかったようにも思える。
気になって仕方がない。なんだか余計なことに首を突っ込んでしまったようだ。
このまま何も知らない方が幸せかもしれないが、私は先祖が何者だったかを知りたい。大したことない事実が発覚して、あぁよかったと安心できるのを期待しているのだろう。
真相はまだ分からないが、何にせよ家の秘密を他人に知られるのは気持ちよくない。良からぬことが分かる可能性が生じた以上、ここまで先祖調べのガイドを務めてくれていた三井には秘密で、ひとり調査を続けてみることにしたい。
憂鬱な調査が始まるが、何も知らないよりはマシだ。
仕事で訪れた学会で知り合った友人の歴史学者・三井歩が、調査の過程を大学の授業で使いたいというので快諾した。結果的に、学生の何人かが興味を持ってくれたらしい。手助けになるような情報を寄せてくれた学生までいた。私の住む東京から、先祖の地・K島にまではるばる調査に行った身としては、いくらか報われた気分である。
ところが、現地調査では、四ツ谷家の墓を見つけることはできなかった。お寺が管理している過去帳さえ見つけることができれば、先祖調査は一気に進むのだが。
諦められなかった私は、四ツ谷家の家系図を書いて徳明寺というお寺への手紙に同封し、「過去帳の内容を教えてもらえませんか?」と尋ねてみた。
返事はないものかと思われたが、最近になってお寺から返信があった。
ところが、内容がどこかおかしい。
私は、ここに書かれていた「先祖のことを調べてはい
けない理由」に心当たりがない。住職は気を遣ってくれたつもりだろうが、この文面からは、私の先祖には何かネガティブな事実が伴っていると読み取れる。これが、四ツ谷家が島を離れる理由だったのだろうか。
今から思えば、三井は相当早い段階から何かを察していたのかもしれない。「先祖調べをしていてネガティブな情報にぶつかることはそう珍しくはない」と繰り返していたのは、何か良からぬことが発覚する気配を感じていたからか? 私は何が判明しても気にしないと答えた。だが、実際にその可能性に直面してみると、気持ち良いはずがない。
はたして、私の先祖は島内で忌み嫌われる人間だったのだろうか。何か悪いことをしたのだろうか。そういえば、K島の住民に「四ツ谷」と名乗った時の反応もどこか冷たかったようにも思える。
気になって仕方がない。なんだか余計なことに首を突っ込んでしまったようだ。
このまま何も知らない方が幸せかもしれないが、私は先祖が何者だったかを知りたい。大したことない事実が発覚して、あぁよかったと安心できるのを期待しているのだろう。
真相はまだ分からないが、何にせよ家の秘密を他人に知られるのは気持ちよくない。良からぬことが分かる可能性が生じた以上、ここまで先祖調べのガイドを務めてくれていた三井には秘密で、ひとり調査を続けてみることにしたい。
憂鬱な調査が始まるが、何も知らないよりはマシだ。