コーヒーの味が変われば、それは未来の味覚である可能性がある。

Cさんは帰宅時、須園(すえ)通りのコンビニでコーヒーを買うことを日課としていた。

だがその日、ケース内のコップへと注がれた液体は透明だった。
何かのミスでコーヒー豆が切れたと考えたCさんだったが、取り出したものに違和感を覚えた。

「あまり嗅いだことのない、いい匂いだったんですよ」

酒だったという。
アルコール度数3%の桃のチューハイだった。

「飲んでみても、ええと、そういう味でした」

当時十九歳の真面目な大学生だったCさんは後ろめたさを覚えながらも、それを楽しんだ。
不思議と他の人からすれば、ただのコーヒーでしかなかった。

「試しに友人に飲ませてみたんですけどね、コーヒーを奢ってくれる変な奴、って顔をされただけでした」

コンビニでコーヒーを買うたび、さまざまな酒を嗜んだ。

時には酒ではなく紅茶や日本茶などもあったが、それすらCさんにとっては娯楽の一部だ。

コーヒーが別のものに変わる現象ではなく、自身の未来の味覚の先取りであると判明したのは、しばらくしてからのことだ。

「出なくなったんです」

コーヒーマシンから液体が出なくなった。
店員に確認しても、怪訝な顔をされるだけだった。他の人からすれば変化は起きていなかった。

「日記と照らし合わせてみると、ちょうど一年先に味わったものが、必ず出ていました」

空をコップに注がれる日々が続いた。
落ち窪んだ目の、やせ細ったCさんの『何も飲まない日々』が始まるのは三週間後のことになる。