二日目の追放会議が始まった。私の左隣、上原くんが座っていた席の立て札が倒されているのが目に入った。同じように、野村さんの名前も倒されている。
「そいつだ! 若月が人狼だ!」
ぎょっとして私は声の主を見詰めた。坂口くんが立ち上がって、私を指差して叫んでいる。
「そんな……どうして」
私の声は、恐怖に震えていた。追放されれば、私も上原くんや野村さんのように、存在を消されてしまうのだ。
「そうよ! なんで咲久良が人狼なのよ!」
美鈴が大声で反論してくれた。
「うっせえ! ブスは黙ってろ!」
面と向かって侮蔑の言葉を吐かれて、美鈴は絶句している。
「ブスは良くありません。謝罪するべきです」
田城くんがぴしゃりと言った。
「悪かったよ」
坂口くんはしぶしぶ従った。
「とにかく、若月が人狼なんだよ! そいつを追放しろ!」
「私はただ、松本さんに言われたから自分の意見を言っただけで、上原くんに投票したわけじゃない」
「うるせえ! 今さら善人面しても無駄だぞ! 化けの皮を剥いでやる!」
坂口くんは、私の意見に耳を貸す気は全くないようだった。
「僕も知りたいです。どうして、若月さんが人狼だと思うんですか」
坂口くんはしばらく田城くんを見詰め、思い出したように言う。
「そうだ。おまえも昨日、若月に投票してたよな。一緒に若月に投票してくれよ!」
「根拠を言え、言うてるんや。めんどいなあ」
竹原くんが痺れを切らしていらいらしている。
「決まってる! 純平が投票されるように仕組んだからだ!」
「だとしたら、根拠としては弱いですね」
田城くんの右隣で、竹原くんも頷いている。
「そうやな。人狼ならわざわざ吊るさんでも、噛めばええわけやから、目立つようなことはせえへんやろ」
松本さんが首を傾げる。
「ちょっと意味がわからないんですけど」
「昼間にググってん。人狼ゲームの専門用語とか、セオリーとか」
竹原くんはスマホを使う仕種をした。
「僕も調べました。『噛む』は、人狼による襲撃。『吊るす』は、会議で追放することを意味します。つまり、若月さんを人狼だと仮定すると、上原くんに個人的な恨みを持っているのだとしたら、夜のターンで襲撃していたはずだと、そういうことですよね。竹原くん」
「あんた、なんでそんなしゃべり方なの」
竹原くんより先に、松本さんがもっともな疑問を口にした。
「おまえらおかしいぞ! なんで若月の肩持つんだよ!」
かわいそうに、坂口くんは泣きそうになっていた。
「純平がどんなやつか全然知らないくせして、好き勝手言いやがって……純平がサッカー部でどれだけ苦労してたか、おまえら知らないだろう! 家族でごたごたがあって、純平がどんなに傷付いたか、おまえら知らないだろう!」
全員の顔を見回していた坂口くんが、ぴたりと動きを止めた。顔面が蒼白になり、目が見開かれていく。坂口くんは、テーブルの向こうの山本くんを見詰めていた。
「やまちゃん、知ってたよな。そうだよ! クラブチームで弟同士が一緒になって、仲良くなったみたいだって、こないだ二人で話してたじゃないか! 三年間ずっと一緒だったのに! それなのに、純平に投票しやがって! 若月よりひどいじゃないか!」
坂口くんはテーブルを力いっぱいたたいた。
「なんとか言えよ!」
私の隣で、山本くんが大きく息を吐いた。
「純平とは色々あったけど、俺だって、純平が、こんなわけのわからないゲームで殺されるような、ろくでもないやつだとは思ってない」
「だったら、一緒に若月に投票してくれよ」
「それとこれとは話が別だ」
二人の声のトーンが全然違う。坂口くんはとても興奮しているようだが、山本くんは平静そのものだった。
「そいつだ! 若月が人狼だ!」
ぎょっとして私は声の主を見詰めた。坂口くんが立ち上がって、私を指差して叫んでいる。
「そんな……どうして」
私の声は、恐怖に震えていた。追放されれば、私も上原くんや野村さんのように、存在を消されてしまうのだ。
「そうよ! なんで咲久良が人狼なのよ!」
美鈴が大声で反論してくれた。
「うっせえ! ブスは黙ってろ!」
面と向かって侮蔑の言葉を吐かれて、美鈴は絶句している。
「ブスは良くありません。謝罪するべきです」
田城くんがぴしゃりと言った。
「悪かったよ」
坂口くんはしぶしぶ従った。
「とにかく、若月が人狼なんだよ! そいつを追放しろ!」
「私はただ、松本さんに言われたから自分の意見を言っただけで、上原くんに投票したわけじゃない」
「うるせえ! 今さら善人面しても無駄だぞ! 化けの皮を剥いでやる!」
坂口くんは、私の意見に耳を貸す気は全くないようだった。
「僕も知りたいです。どうして、若月さんが人狼だと思うんですか」
坂口くんはしばらく田城くんを見詰め、思い出したように言う。
「そうだ。おまえも昨日、若月に投票してたよな。一緒に若月に投票してくれよ!」
「根拠を言え、言うてるんや。めんどいなあ」
竹原くんが痺れを切らしていらいらしている。
「決まってる! 純平が投票されるように仕組んだからだ!」
「だとしたら、根拠としては弱いですね」
田城くんの右隣で、竹原くんも頷いている。
「そうやな。人狼ならわざわざ吊るさんでも、噛めばええわけやから、目立つようなことはせえへんやろ」
松本さんが首を傾げる。
「ちょっと意味がわからないんですけど」
「昼間にググってん。人狼ゲームの専門用語とか、セオリーとか」
竹原くんはスマホを使う仕種をした。
「僕も調べました。『噛む』は、人狼による襲撃。『吊るす』は、会議で追放することを意味します。つまり、若月さんを人狼だと仮定すると、上原くんに個人的な恨みを持っているのだとしたら、夜のターンで襲撃していたはずだと、そういうことですよね。竹原くん」
「あんた、なんでそんなしゃべり方なの」
竹原くんより先に、松本さんがもっともな疑問を口にした。
「おまえらおかしいぞ! なんで若月の肩持つんだよ!」
かわいそうに、坂口くんは泣きそうになっていた。
「純平がどんなやつか全然知らないくせして、好き勝手言いやがって……純平がサッカー部でどれだけ苦労してたか、おまえら知らないだろう! 家族でごたごたがあって、純平がどんなに傷付いたか、おまえら知らないだろう!」
全員の顔を見回していた坂口くんが、ぴたりと動きを止めた。顔面が蒼白になり、目が見開かれていく。坂口くんは、テーブルの向こうの山本くんを見詰めていた。
「やまちゃん、知ってたよな。そうだよ! クラブチームで弟同士が一緒になって、仲良くなったみたいだって、こないだ二人で話してたじゃないか! 三年間ずっと一緒だったのに! それなのに、純平に投票しやがって! 若月よりひどいじゃないか!」
坂口くんはテーブルを力いっぱいたたいた。
「なんとか言えよ!」
私の隣で、山本くんが大きく息を吐いた。
「純平とは色々あったけど、俺だって、純平が、こんなわけのわからないゲームで殺されるような、ろくでもないやつだとは思ってない」
「だったら、一緒に若月に投票してくれよ」
「それとこれとは話が別だ」
二人の声のトーンが全然違う。坂口くんはとても興奮しているようだが、山本くんは平静そのものだった。