私は見慣れた場所に立っていた。一年一組の教室だ。制服姿の同級生が何人かいる。山本くんや松本さん、それに美鈴の姿もある。数えてみると、私をいれて十人だった。
布団に入って眠ったはずなのに、何が起こっているのかわからない。学校に来た覚えもない。美鈴や山本くんも私と同じなのか、きょろきょろと辺りを見回している。
いつもの教室と違うのは、黒光りする高級そうな木製のテーブルが、教室の大半を占めていることだった。どう考えてもこんなに大きなテーブルを運び入れることは不可能だ。分解しない限り、教室の前と後ろに設置されたドアを通り抜けられるわけがない。私はそう思って、テーブルに近付いてみた。どこにも継ぎ目らしきものは見えない。いったい、何がどうなっているんだろう。
私と同じことをしている同級生がいた。入学式で新入生代表の挨拶をしていた野村さんだ。彼女とは話したことはなかったけど、名前はすぐに覚えた。
「やだっ……あたしマニキュア除光液でちゃんと落としたはずなのに」
松本さんが自身の爪を見て嘆いている。胸元から覗くキャミソールは、昼間に見たものと同じだった。
テーブルの周りには、高級木材とはふつりあいなパイプ椅子が、人数分並べられていた。まるで国会議事堂のように、それぞれの名前が書かれた立て札が置かれていた。私の名前が記された立て札は、教卓のすぐそばにあった。右隣には山本くん、左隣は上原純平くんだ。どうやら出席番号順のようだ。そこに座れということだろうか。
スピーカーからノイズが聞こえたのはその時だった。私が顔を上げると、他の人たちも同じようにスピーカーを見上げていた。私はその時になってようやく、時計の全ての針が十二を指しているのに気付いた。秒針まで止まっている。私は違和感を覚えた。教室の時計には、秒針があっただろうか。
『おめでとうございます。こちらにおられる十人の皆さまは、ゲームアプリ「パラレル人狼ゲーム」のモニターに選ばれました』
スピーカーから、抑揚のない中性的な声が聞こえてきた。ボイスチェンジャーを通したものではなく、最初から機械で合成したような声だった。
『皆さまにはこれから、人狼ゲームをプレイしていただきます。村人の中に混じった二人の人狼を追放すれば村人側の勝ち、村人と人狼が同数になれば、人狼側の勝利となります。皆さま、黒板をご覧ください。役職をご説明します』
映写機もないのに、黒板に文字が映し出されていく。預言者から始まり、裏切り者までの能力と人数が次々と示されていった。
『皆さま、ご自身の名前が置かれた席にお座りください。目を閉じると、頭の中にカードの映像が浮かびます。それが皆さまの役職です。プレイ中は何度でも、役職を確認することができます』
何人かの生徒が、微妙な顔をしながら席に座っていく。私も言われた通りにすると、鮮明にカードの映像が浮かび上がった。鍬を使って畑を耕す村人の様子が描かれていた。
『皆さまには、十分間の追放会議を行っていただきます。話し合いによって、追放する人を決めてください。チャイムが鳴ったら、会議終了の合図です。人狼だと思う人を指差してください。誰にも投票しない場合は、自分に投票したと見なされます。一番多くの票を集めた人が追放されます。同数の場合は、決選投票を行います。それでも同数だった場合、最多票を集めた人を全員追放することになります。人狼及び能力者は、ログアウトまでに時間的猶予が与えられます。なお、ゲームにおける追放・襲撃は、現実世界での消滅を意味します。すなわち、ゲーム上で死亡した者は、現実世界で存在がリセットされるということです』
少し間を開けて、機械音声が流れる。
『騙し合いを制する者が、デスゲームを制します。さあ皆さま、奮って生き残ってください』
時計の秒針が動き出した。カウントダウンが始まったのだ。教室に時を刻む音が響き渡る。
皆、固唾を呑んでお互いの顔をうかがっている。緊張感に耐えられなくなったのか、松本さんが沈黙を破った。
布団に入って眠ったはずなのに、何が起こっているのかわからない。学校に来た覚えもない。美鈴や山本くんも私と同じなのか、きょろきょろと辺りを見回している。
いつもの教室と違うのは、黒光りする高級そうな木製のテーブルが、教室の大半を占めていることだった。どう考えてもこんなに大きなテーブルを運び入れることは不可能だ。分解しない限り、教室の前と後ろに設置されたドアを通り抜けられるわけがない。私はそう思って、テーブルに近付いてみた。どこにも継ぎ目らしきものは見えない。いったい、何がどうなっているんだろう。
私と同じことをしている同級生がいた。入学式で新入生代表の挨拶をしていた野村さんだ。彼女とは話したことはなかったけど、名前はすぐに覚えた。
「やだっ……あたしマニキュア除光液でちゃんと落としたはずなのに」
松本さんが自身の爪を見て嘆いている。胸元から覗くキャミソールは、昼間に見たものと同じだった。
テーブルの周りには、高級木材とはふつりあいなパイプ椅子が、人数分並べられていた。まるで国会議事堂のように、それぞれの名前が書かれた立て札が置かれていた。私の名前が記された立て札は、教卓のすぐそばにあった。右隣には山本くん、左隣は上原純平くんだ。どうやら出席番号順のようだ。そこに座れということだろうか。
スピーカーからノイズが聞こえたのはその時だった。私が顔を上げると、他の人たちも同じようにスピーカーを見上げていた。私はその時になってようやく、時計の全ての針が十二を指しているのに気付いた。秒針まで止まっている。私は違和感を覚えた。教室の時計には、秒針があっただろうか。
『おめでとうございます。こちらにおられる十人の皆さまは、ゲームアプリ「パラレル人狼ゲーム」のモニターに選ばれました』
スピーカーから、抑揚のない中性的な声が聞こえてきた。ボイスチェンジャーを通したものではなく、最初から機械で合成したような声だった。
『皆さまにはこれから、人狼ゲームをプレイしていただきます。村人の中に混じった二人の人狼を追放すれば村人側の勝ち、村人と人狼が同数になれば、人狼側の勝利となります。皆さま、黒板をご覧ください。役職をご説明します』
映写機もないのに、黒板に文字が映し出されていく。預言者から始まり、裏切り者までの能力と人数が次々と示されていった。
『皆さま、ご自身の名前が置かれた席にお座りください。目を閉じると、頭の中にカードの映像が浮かびます。それが皆さまの役職です。プレイ中は何度でも、役職を確認することができます』
何人かの生徒が、微妙な顔をしながら席に座っていく。私も言われた通りにすると、鮮明にカードの映像が浮かび上がった。鍬を使って畑を耕す村人の様子が描かれていた。
『皆さまには、十分間の追放会議を行っていただきます。話し合いによって、追放する人を決めてください。チャイムが鳴ったら、会議終了の合図です。人狼だと思う人を指差してください。誰にも投票しない場合は、自分に投票したと見なされます。一番多くの票を集めた人が追放されます。同数の場合は、決選投票を行います。それでも同数だった場合、最多票を集めた人を全員追放することになります。人狼及び能力者は、ログアウトまでに時間的猶予が与えられます。なお、ゲームにおける追放・襲撃は、現実世界での消滅を意味します。すなわち、ゲーム上で死亡した者は、現実世界で存在がリセットされるということです』
少し間を開けて、機械音声が流れる。
『騙し合いを制する者が、デスゲームを制します。さあ皆さま、奮って生き残ってください』
時計の秒針が動き出した。カウントダウンが始まったのだ。教室に時を刻む音が響き渡る。
皆、固唾を呑んでお互いの顔をうかがっている。緊張感に耐えられなくなったのか、松本さんが沈黙を破った。