休み時間になり、山本くんが私を呼び出した。
「踊り場って、なんで踊り場って言うんだろうな。踊ってんの見たことねえけど」
人気のない階段の踊り場で、山本くんは窓を開けて、薄雲が広がる春の空を仰いでいる。
「気にしなくていいから」
私が口を開く前に、山本くんが先手を打った。
「何かしてほしいわけじゃないし、今まで通りでいい」
だったら、無遠慮な松本さんをドン引きさせるような言い方をしなくても良かったのに。そう思ったが、私は黙っていた。
山本くんは、窓から視線を移して、屈託のない笑顔を見せた。
「若月とまた同じクラスになれただけで、俺はそれだけで充分だから」
教室に戻っていく山本くんの後姿を見て思う。私には、あなたに想ってもらえる価値なんかない。
英語の予習を終えた頃には、間もなく日付が変わろうとしていた。アラームをセットするためにスマホを手に取る。身に覚えのないアイコンに、私は眉根を寄せた。『パラレル人狼ゲーム』というアプリが、知らぬ間にダウンロードされていたのだ。
なんだろう。数年前に流行した人狼ゲームのアプリだろうか。気持ち悪かったが、特に何もせずに、そのまま就寝した。