私たちの漫画のタイトルは、『狼ゲームのオオガミくん』。小学六年生のタカシという少年が主人公だ。タカシが修学旅行で訪れた遊園地で、VRゲームからログアウトできなくなるというアクシデントが起こる。クラスメイト全員がゲームオーバーになれば、VR装置から電流が流れて全員死亡する。タカシが一クラス三十人の命を背負い、クラス対抗勝ち抜き人狼ゲームに挑んでいく。
私は意味もなく、ノートに山本くんの似顔絵を落書きしていたわけではない。私は、春香を偲んでタカシを描いていた。山本くんもそれをわかっていて、懐かしそうに微笑んでいたのだ。彼は、私たちの読者だった。主人公の大神タカシのモデルは、山本尊なのだから。
山本くんをモデルにしようと言ったのは春香だ。春香はこう言っていた。
――山本くんはきっと、ライン切りができる人だと思うから。
『ライン切り』は、人狼ゲームの専門用語だ。ほころびが出た途端、連鎖的に疑われるのが人狼ゲームだ。仲間の人狼が疑われた場合、あえて仲間に投票する行為を、ライン切りという。共倒れを防ぐためのテクニックだ。目的を果たすために、時には仲間の命さえも切り捨てる。手段を選ばない非情さが、デスゲームには必要不可欠なのだ。山本尊は、実にうまくやってくれた。
今度は私が、うまくやる番だった。
田城健太郎を陥れたのは、他でもない私自身なのだ。
観察眼に優れた田城くんは、美鈴が山本くんに掴みかかっていた様子から、山本くんが怪しいと踏んだのだろう。予想通り、私を訪ねて美術室にやってきた。そう、私は彼がやってくることを予見していた。
ブラウスのボタンを全てほつれやすくしておくのは、さすがに手間がかかった。ブレザーを上に着ているから、引っかける心配は少なかったけど、ブラウスを着る時には細心の注意を払った。
壁に取り付けられたフックと、床に置かれたイーゼルは、自分で用意した。隠しカメラをセットしたのも私だ。田城くんにばれないように、段ボール箱に穴を開けて、カメラのレンズを向けていた。
あんなにうまくいくとは、自分でも思っていなかった。ブラウスがフックに引っかかって完全に脱げてしまった時は、自分でも驚いたほどだ。田城くんの手の位置も絶妙だった。まるで漫画のように、見事に左の乳房を鷲掴みにしてくれた時は、快哉を叫びたい気分だった。後は、隠し撮りした画像を編集して、フリーメールアドレスから松本衣織のスマホに送信するだけで良かった。松本さんには直情的なところがあるから、煽り立てれば、日和見主義の鬼屋敷くんを説得してくれると思っていた。松本さんが想像した以上に熱くなってくれたのは、嬉しい誤算だった。彼女はきっと、過去に男関係で失敗しているのだろう。
私はあの日の早朝、電話で山本くんに作戦を伝えた。山本くんは、もちろん賛成しなかった。
私は意味もなく、ノートに山本くんの似顔絵を落書きしていたわけではない。私は、春香を偲んでタカシを描いていた。山本くんもそれをわかっていて、懐かしそうに微笑んでいたのだ。彼は、私たちの読者だった。主人公の大神タカシのモデルは、山本尊なのだから。
山本くんをモデルにしようと言ったのは春香だ。春香はこう言っていた。
――山本くんはきっと、ライン切りができる人だと思うから。
『ライン切り』は、人狼ゲームの専門用語だ。ほころびが出た途端、連鎖的に疑われるのが人狼ゲームだ。仲間の人狼が疑われた場合、あえて仲間に投票する行為を、ライン切りという。共倒れを防ぐためのテクニックだ。目的を果たすために、時には仲間の命さえも切り捨てる。手段を選ばない非情さが、デスゲームには必要不可欠なのだ。山本尊は、実にうまくやってくれた。
今度は私が、うまくやる番だった。
田城健太郎を陥れたのは、他でもない私自身なのだ。
観察眼に優れた田城くんは、美鈴が山本くんに掴みかかっていた様子から、山本くんが怪しいと踏んだのだろう。予想通り、私を訪ねて美術室にやってきた。そう、私は彼がやってくることを予見していた。
ブラウスのボタンを全てほつれやすくしておくのは、さすがに手間がかかった。ブレザーを上に着ているから、引っかける心配は少なかったけど、ブラウスを着る時には細心の注意を払った。
壁に取り付けられたフックと、床に置かれたイーゼルは、自分で用意した。隠しカメラをセットしたのも私だ。田城くんにばれないように、段ボール箱に穴を開けて、カメラのレンズを向けていた。
あんなにうまくいくとは、自分でも思っていなかった。ブラウスがフックに引っかかって完全に脱げてしまった時は、自分でも驚いたほどだ。田城くんの手の位置も絶妙だった。まるで漫画のように、見事に左の乳房を鷲掴みにしてくれた時は、快哉を叫びたい気分だった。後は、隠し撮りした画像を編集して、フリーメールアドレスから松本衣織のスマホに送信するだけで良かった。松本さんには直情的なところがあるから、煽り立てれば、日和見主義の鬼屋敷くんを説得してくれると思っていた。松本さんが想像した以上に熱くなってくれたのは、嬉しい誤算だった。彼女はきっと、過去に男関係で失敗しているのだろう。
私はあの日の早朝、電話で山本くんに作戦を伝えた。山本くんは、もちろん賛成しなかった。