私は裏切り者。恋人(・・)だった吉田春香を裏切った時、私は本物の狼になった。
 そう。私に割り当てられたカードは、村人ではなかったのだ。
 カードには、満月の夜に鍬を使って畑を耕す村人の様子が描かれていた。月明かりを浴びて、大きな影が伸びている。影は人間の姿をしていなかった。犬のような耳があり、長い尻尾が生えている。
 カードにははっきりと、『裏切り者』と記されていた。人間でありながら、人狼に協力する多重人格。それが私に割り当てられた役割だった。多重人格は裏切り者の別名だ。まさに私にぴったりな役職だった。
 春香は私の恋人だった。
 松本さんは、純平くんのことを幼稚だと言っていたけど、決してそうだとは言い切れない。今になってやっとわかった。純平くんは、私たちの関係に気付いていた。おそらく、山本くんも。だからこそ、純平くんは春香に嫉妬したのだ。
 なんだ。結局春香が死んだのは、私のせいだったのか。
 山本くんは、純平くんについて饒舌に語っていたけれど、私は純平くんを死に至らしめたことを、全く後悔していない。もちろんゲームが始まった当初は、ゲームマスターの言葉を鵜呑みにしていたわけではなかった。
 けれども、命懸けで人狼ゲームをやらされるのなら、春香を死に追いやった上原純平に、報いを受けさせたいと思った。私は明確な意志を持って純平くんを名指しし、意図的に票が集まるように仕向けたのだ。
 ゲームが始まった日の放課後、私は山本くんから、自身が人狼であると聞かされた。そして、もう一人の人狼が美鈴であることも。
 私も、裏切り者であると打ち明けた。私たちは、人狼チームが生き延びるために動き始めた。
 誰も信じていなかったけれど、坂口くんが私を裏切り者だと言い当てた時、私は内心で喝采を送ったものだ。
 松本衣織の言う通り、田城健太郎は実に有能な預言者だった。彼は百パーセントの確率で、人狼チームの三人を占っていたのだから。
 美鈴を失ったことは痛手だったが、やっかいな用心棒である竹原勤の尻尾を掴むことに成功した。
 美鈴が掴みかかっていたのも無理はない。山本尊は、私を生かすために、美鈴を躊躇なく犠牲にした。美鈴を切り捨てることにより、自らが信用に足る人物である証明したのだ。やはり、春香の見立ては正しかった。
 私は中学時代、春香と一緒に人狼ゲームを題材にした漫画を描いていた。もともと春香が漫画家を目指していた。春香がストーリーを考え、私がキャラクターの絵を描いた。春香がキャラクターを描くと、どうしても劇画風になってしまうからだ。