学校に行くと、襲撃されたのはやはり、鬼屋敷くんだった。私に驚きはなかった。松本さんか鬼屋敷くんの、どちらかが襲撃されると思っていた。
 残りの人数は三人。もう、私と松本さんと、山本くんしか残っていない。
 村人チームの勝利要件は、人狼を追放することだ。
 誰が人狼なのか、私にはもうわかっている。本物の預言者だった田城くんが、最期に命懸けで教えてくれた。間違いない。山本くんが人狼だ。山本尊くんが、もう一人の人狼なのだ。
 人は、どこまで無情になれるのだろうか。
 私と松本さんの二人分の命と、山本くんの命を天びんにかけたら、きっと、山本くんの命のほうが重いんじゃないのかな。
 山本くんは、衝動的に飛び降りようとした私を何度も止めてくれた、すばらしい人だから。
 私は今夜、山本くんに投票できるのだろうか。目蓋の裏に、屈託のない笑顔が浮かぶ。山本くんは、今夜自分に票が集まっても、私に笑顔を向けるだろうか。
 私自身と松本さんを生かすために、山本くんの尊い命を奪うことが正しい選択なのか、私にはわからない。

 放課後、松本さんのほうから、私に声をかけてくれた。渡り廊下に並んで立っていると、サッカー部が練習している様子が見えた。紅白戦のようだ。山本くんも出場している。
「あ、ゴール決めた。山本って、イケメンだし、運動神経いいし、ぱっと見、かっこいいよね」
 手すりから身を乗り出し、両手をぶらぶらさせながら、松本さんは呟くように言う。短いスカートから、下着が見えてしまいそうだった。
「田城ってさ、変なしゃべり方だし、妙にガタイいいし、威圧感もあって変態っぽいのに、今思えば、有能な預言者だったんだよね」
 夜が明けて、松本さんは冷静になったようだ。
「あたし、悪い癖なんだけど、一旦スイッチ入っちゃうと、なかなか元に戻らないとこあって。田城と鬼屋敷には、悪いことしちゃったかなあって、ちょっと反省」
 松本さんは私を見て苦笑した。
「怒ってくれて嬉しかったよ。ありがとう」
 松本さんは手すりから離れて、私に向き直った。
「田城が占ったから、あんたが人狼じゃないことはわかってる。だから、ひとつだけ質問させて」
 松本さんは、私を見澄ますように見詰めた。
「裏切り者じゃ、ないよね」
 私は、一拍置いて応えた。
「うん。私は、ただの村人」
「なら、良かった」
 松本さんはほっとしたように笑った。
「あたしも村人だから、今夜、山本に投票して、それで終わり」
 今夜、全てが決する。