四日目の追放会議が始まった。五人いなくなったことで、空席が目立つようになった。
 会議が始まるなり、鬼屋敷くんが目ざとく、田城くんの頬の傷に気付いた。
「どうしたんだ? それ」
「山本がやったのよ」
 応えたのは松本さんだった。空席を挟んだ隣の席の田城くんを睨んでいる。私を含めた全員が、驚いて松本さんを見詰めた。
「どうして松本さんが知ってるの?」
 松本さんは視線を田城くんに固定したまま、語調を強めた。
「誰かが、あたしのスマホに送ってきたのよ」
 投票する時のように、マニキュアが塗られた爪の先を田城くんに向ける。
「そいつが、若月のブラウスのボタンを全部ぶっちぎって、胸に触ってるところが、ばっちり映ってた!」
 教室中が騒然となった。私も驚きを隠せない。映っていたということは、隠し撮りでもされていたのだろうか。誰が? 何のために? しかもその動画を、何者かが松本さんのスマホに送りつけたというのだ。
 田城くんは勢いよく立ち上がって、必死に弁解を始めた。
「誤解です! 僕はつまずいただけなんです。若月さん! 触れてしまったことは謝罪します! ですが、わざとではないんです!」
「馬鹿ばっかり! 男なんて馬鹿ばっか!」
 松本さんは聞き耳を持たず、田城くんを糾弾する。
「何がつまずいただけよ! つまずいただけで、ブラウスのボタンが全部飛ぶわけないでしょうが! あんたが預言者っていうのも、全部嘘だったんでしょ! 竹原と組んで森脇を吊るして、若月に近付くためだった! あんたが人狼よ!」
「松本さん、落ち着いて」
 私の声は、松本さんには届かない。こうなってしまっては、もうおしまいだ。今夜、田城くんが吊るされてしまう。村人チームは、最後の希望を失ってしまう!
 鬼屋敷くんがおろおろしながら、松本さんをいさめようとする。
「落ち着けよ。竹原は人狼に襲われたから、少なくとも村人チームだ。本物の用心棒だったんだよ。用心棒に守られた田城も、村人チームだ」
「うるさい。うるさい! 田城の味方するんなら、あんたも人狼と見なすよ!」
「な、なんでそうなるんだ! 僕はただの村人だよ!」
 鬼屋敷くんが唾を飛ばしながら叫んだ。肩で息をしながら、必死になって訴えている。
 私は、隣に座る山本くんの横顔を見詰めた。一言も発さず、ただなりゆきを傍観しているように見えた。
 田城くんがスピーカーの辺りを見上げている。残り時間を確認したのだろう。
「若月さん。僕はあなたに、重大なことを伝えるために、美術室に行ったんです。昨夜、人狼を見付けました」
 田城くんがゆっくりと右手を上げる。恐れていたことが、現実になった気がした。
「もう一人の人狼は、山本尊です」
 名指しされた山本くんは、目を瞬いただけだった。驚いてそうしたというよりは、こうなることを予見していたように見える。
「いけしゃあしゃあと何言ってんのよ!」
 田城くんは松本さんを無視し、私を見詰めて感情に訴えてきた。
「あなたが最も信頼しているその男は、人狼なのです! 善良な村人の振りをして、何食わぬ顔でクラスメイトの寝首を掻いてきたのです! 若月さん! 僕を信じてください! 僕と一緒に、デスゲームを終わらせましょう!」
 山本くんが、人狼?
 私には信じられなかった。だって、山本くんは、私と同じチームだって言っていたもの。あの時のほっとした表情が、嘘だったとは思えない。けれども、田城くんが嘘をついているとも思えなかった。
 どうしたらいいの?
 チャイムが鳴ってしまった。誰かに投票しなければならない。
「若月」
 山本くんと視線がぶつかった。山本くんは、真夏の青空のように屈託のない笑顔を浮かべる。
「俺に入れていいぜ」
 私は呆気に取られてしまった。どうして山本くんがそんなことを口にするのか、私にはわからない。