「僕もそう思う。竹原くんの用心棒と、田城くんの預言者が確定みたいになってるけど、まだそうだと決まったわけじゃないと思うのに」
 鬼屋敷くんが呟くように言った。
「そうよ! 私は本物の預言者! 用心棒が誰なのかわからないけど、とにかく田城くんを占って人狼って出たの!」
「今ので、完全に墓穴を掘りましたね」
「え? そうなの?」
 美鈴ではなく、松本さんが聞き返した。
「そうだな。村かたりしてただけだって言えば、まだ勝機はあったかもしれない。用心棒の竹原が、身を挺して道連れにしたってところか」
 山本くんの発言に、竹原くんが身を乗り出す。
「はい? 道連れ?」
「っていうか、竹原くんの用心棒って、確定なのか?」
 鬼屋敷くんがすかさず言う。
「ほぼ確定ってことでいいと思う。なぜなら、用心棒は本来、名乗り出るべき役職じゃないからだ。おまえら、なんでカミングアウトしようってことになったんだ?」
 複数形ということは、竹原くんだけではなく、田城くんにも聞いているようだ。
「用心棒がカミングアウトするメリットなんて、ほぼないだろう。用心棒は、自分自身を守れないんだから。そりゃあ、守りが成功したら、それとなく村人チーム確定ってことは言うべきだろうけど、正体がばれたら、人狼に襲撃されるだけじゃないか」
 竹原くんの顔から、血の気が引いていく。
「待ってください! 坂口くんが人狼だったのではないのですか?」
「なるほどな。坂口が人狼だと思い込んでたから、今夜森脇を追放すれば方が付くと思ったわけか」
「どういうことです? 坂口くんは村人チームだったのですか」
 山本くんは田城くんを一瞥し、テーブルに視線を落とした。
「人狼は人狼を襲えない。これが絶対条件だ。一日目の夜のターンで襲撃された野村は人狼じゃない。霊媒師が名乗り出てないからなんとも言えないけど、会議で追放された純平と坂口が人狼じゃなかった場合、森脇を追放しても、人狼はもう一人残ってる」
 竹原くんの顔が、みるみるうちに蒼ざめていく。
「ワイ、どうなるん?」
 山本くんが重い口を開いた。
「多分だけど、今夜竹原が襲撃される。次に狙われるのは預言者の田城だ。明日の追放会議で、確実にもう一人の人狼を吊るさないと、俺たち村人チームに勝機はない」
 山本くんが言い終わると同時に、チャイムが鳴り出した。会議終了の時間だ。誰かを追放するために、投票しなければならない。
 私は自分自身に問いかけた。
 誰かって、いったい誰を?
「若月さん」
「若月」
 田城くんと山本くんの呼び声が、遠くの音のように響いた。涙はまだ止まってくれない。みんなの会話を聞きながら、私はずっと泣いていた。
「ごめんなさい」
 私は無意識に謝っていた。硬く目をつぶりながら、私は初めて投票した。投票すればどうなるかわかっているのに。私は初めて、殺意を持って人を選んだ。
 ゲームマスターの声が、無情に響く。
『投票の結果、森脇美鈴が追放されることになりました。本日のプレイは終了となります。お疲れさまでした。人狼及び能力者の皆さまには、ログアウトまでに猶予が与えられます』
 目を開けると、美鈴が鬼の形相で山本くんに掴みかかっていた。温厚な彼女が、感情を剥き出しにしているところを初めて見た。田城くんの言うように、私は彼女のことを何も知らなかったのかもしれない。
 遠のいていく意識の中で、私は悟った。山本くんの言う通りだった。ゲームはまだ、終わらない。人狼は、もう一人残っている。