「詳しいって言うほどでもない。漫画で読んだことある程度。中二の時はやってて。クラスで回し読みしてたから」
 山本くんは、私の分まで応えてくれた。春香と私が、二人で人狼ゲームの漫画を描いていたことを、言わないでいてくれたのだ。
「他の二人は、誰を占ったんだ?」
「時間がありません。森脇さんから、占った相手、理由、結果を発表してください」
 鬼屋敷くんの発言を引き継いで、田城くんが的確な指示を出した。
「私は、咲久良を占った。友達だから、身の潔白を証明したかったから。白だったわ」
「ワイは松本。理由は、タイプやから。白やった」
「はあ?」
 松本さんは呆れてものが言えない様子だ。「そんな理由?」と、彼女の目が語っている。
「二人とも、矛盾はないようですね」
「矛盾、ないのか?」
 田城くんと鬼屋敷くんが、コンビのようになっている。
 田城くんは改めて、竹原くんを挟んで右側に座る坂口くんに呼びかけた。
「若月さんはたった今、二人の預言者から身の潔白を証明されました。それでもあなたは、若月さんに票を集めろと、そう主張するのですか」
 坂口くんが教室の前方に視線をやった。時計を確認したのだ。おそらく、残り一・二分といったところだろう。
「まだ裏切り者の可能性が残ってる。預言者の占いでわかるのは、人狼かそうでないかだけ。そうだろ?」
 坂口くんは山本くんに同意を求めた。
「そうだ」と、山本くんは頷く。
「ほら! 若月は裏切り者だから、村人チームを混乱させようとしてるんだ!」
「だとしても、です」
 珍しく田城くんが大声を出した。
「このゲームは、人の命を奪います。存在の抹消は死ぬよりひどい。皆さんもわかっているでしょう。僕たちプレイヤー以外、誰も上原くんと野村さんを覚えていないのです。家族ですら、記憶を失っているのでしょう。その証拠に、それとなく担任に聞いてみましたが、入学式の新入生代表の挨拶は、鬼屋敷くんだったようです」
 鬼屋敷くん自身が、一番驚いているようだ。
「僕がやったことになってるのか?」
 あらゆる事象がねじ曲げられ、なかったことにされているのは、おそらく事実だろう。私は昨日、山本くんと別れてから、自室で小学校の卒業アルバムをめくってみた。純平くんの名前は、どこにも載っていなかった。小学三年生まで学童保育でずっと一緒だったのに、純平くんは最初からいなかったことにされてしまっていた。
「完全に白だと証明できない点では、僕も若月さんも、坂口くんも同じです。現時点で限りなく白に近いと言えるのは、二人の預言者に身の潔白を証明された若月さんだけです。憶測で若月さんが裏切り者だと主張するあなたのほうこそ、僕にはよほど怪しく感じられます。あなたこそ人狼ではないのですか」
 最後の一言が、教室の雰囲気を決定付けたと言っても過言ではない。
 チャイムが鳴り響き、会議の終了を知らせる。人狼ゲームは、疑わしいというだけで人を追放していくコミュニケーションゲームだ。集団の和を乱す者、団体行動からはずれる者が排除されることが、往々にしてある。
「おまえら、正気かよ」
 坂口くんの呟きが、断末魔の叫びに聞こえた。
 坂口くんは私に投票していた。他の六人――鬼屋敷くん、竹原くん、田城くん、松本さん、美鈴、山本くんまでもが、坂口くんに投票していたのだ。