坂口くんは、ものすごく傷付いた顔をしている。
「なんだよ……純平もやまちゃんも、みんなして若月若月って……」
 坂口くんはかなり取り乱しているのか、上原くんのプライベートを暴露していることに気付いていない。
「何? 上原も若月命なの?」
 こう言ったのは松本さんだ。
 坂口くんはすっかり開き直ったようだった。
「ああ、そうだよ! それなのに若月は、昨日純平に票が集まるようにみんなをけしかけたんだ! そいつひでえよ! ひでえと思うだろ!」
 坂口くんは両隣の鬼屋敷くんと竹原くんの顔を交互に見た。
 鬼屋敷くんは、突然のことにうろたえている。
「え……じゃあ、上原くんが自殺した子をいじめたのは、嫉妬が理由ってこと?」
 教室の空気が一気に変わった。
「アホくさ。何その理由」
 松本さんが吐き捨てるように言った。
「若月が好きだから、若月のこと独占してる、女友達に嫌がらせしたわけ? 小学生以下! でかい図体して、中身は幼稚園児だったわけ!」
 坂口くんが松本さんを鋭い目付きで睨み、松本さんを黙らせた。
 山本くんは坂口くんから視線を逸らし、テーブルを見詰めている。
「やまちゃん! ちょっとは俺の言うこと聞いてくれたっていいだろ! 昨日の若月には、悪意があったとしか思えねえよ!」
「悪意ねえ」
 その場にいた全員が息を呑んだ。山本くんが、冷ややかな眼差しを坂口くんに向けている。
「そういうおまえはどうなんだ? 純平と一緒になって吉田をいじめてた時、おまえに悪意はなかったのか?」
 坂口くんは身じろぎもせずに押し黙っている。
「話が見えないんだけど。山本も同じクラスなんじゃなかったの?」
 空気を読まない発言は松本さんだ。
「二年の時はね。三年生は違ったの」
 私は小声で応えた。
「そ、それとこれとは、関係ないだろ」
 坂口くんの声は上擦っていた。
「関係ある」
 山本くんは坂口くんを正面から見据えて、一語一語噛み締めるように言った。
「関係あるから、今、こんなことになっているんだ」
 反論する者はいなかった。時を刻む音が教室に響いている。残り時間が少なくなっているはずだ。
 沈黙を破ったのは田城くんだった。
「僕は預言者です。昨夜、若月さんを占いました。彼女は人狼ではありません」
 面食らったのは坂口くんだけではない。突然のことで、私も同じだった。
「どうして若月さんを占ったんだ?」
 こう聞いたのは鬼屋敷くんだ。いつの間にか、昨日の野村さんのような役割を果たしている。
「彼女には、影響力があるからです。昨日の追放会議で、僕と坂口くん、若月さん以外の全員が、上原くんに投票しました。彼女が人狼だった場合、一刻も早く追放するべきだと判断しました」
 決意に満ちた田城くんの様子を、私は恐ろしく思った。田城くんは、真正面から人狼ゲームに挑もうとしている。
「ちょっと待って。本物は私。私が預言者」
「ちょい待ち! ワイがほんまもんの預言者や」
 美鈴と竹原くんが、ほぼ同時にカミングアウトした。二人は驚いてお互いを凝視している。
「どういうこと? 預言者は一人だけなんでしょ?」
 例によって、松本さんがみんなの気持ちを代弁してくれた。
「複数の預言者が名乗り出た場合、もちろん本物は一人だけ。あとの二人は、人狼もしくは裏切り者。あるいは、他の能力者。そう考えるのが、人狼ゲームのセオリーだよな」
 山本くんが正しい回答をした。最後の一言は、私に向けられたものだ。私は頷く。
「村人がかたりをする、『村かたり』っていうのもあるから、一概には言えないけど」
『かたり』というのも、人狼ゲームの専門用語だ。
 松本さんが不服そうな顔をする。
「えー……ってことは、預言者の他に全部の可能性があるってことじゃん。村人まで入ってるなんて。人狼ゲームってそんなにややこしいんだ」
「山本くんと若月さんは、人狼ゲームに詳しいんですか?」
 預言者ではないかもしれないと言われたばかりなのに、田城くんは落ち着いていた。