3日後に死ぬ人を決めて頂きます

「……は?」

 『目を覚ます』と全く見覚えのない野原が広がっていた。
 いや、目を覚ますってなんだよ。僕は橘に首を落とされただろう。
 首は……繋がっている。
 周りを見渡してみると橘達の姿はなかったが、奇妙な面子が困惑した表情でこちらを見つめていた。

「目が覚めたようだな三浦」

「き、キミは……Bグループで処刑された早田じゃないか! それにAグループの田中さんに、冬里くんまで!? ど、どうして……」

 どうして処刑された面子が集まっているんだ?
 もしやこれが死者の国なのか?

「それは私が説明してしんぜよう」

 頭上から聞き覚えのある声が飛んでくる。
 この甲高い声色、人を馬鹿にしたような呑気な態度。

「リース……」

 諸悪の根源、自称転生の女神のリース。
 この場に現れたということはまたコイツの暇つぶしに付き合わされるのかとウンザリする。

「大丈夫大丈夫。そう身構えないの。勝負に『勝った』キミらにはもう何もしないからさ」

「……は?」

 何を言っているんだコイツは。
 僕は——僕らは『負けた』のだ。
 負けて各々が無惨な死を遂げたはずだ。

「リース、最初に言ったよね? 追放モノだーい好きって。そう、異世界モノの主人公といえば追放! いつだって主人公は追放『される』ものでしょ?」

「つまり、あのゲームは最初から投票を最も多く集めた者こそが勝者だったってこと?」

「そういうこと」

「は……はは……」

 そう言われても空しい笑いしか出てこない。
 勝ったからなんだというのだ。
 信じていた人に裏切られたショックが上回り、勝利の実感など一切ない。

「暗い顔しないの! 勝利した貴方達にはちゃんとチートスキルを付与してあげたんだから。後でステータス画面から確認してね?」

「……は? じゃあここは……異世界ってわけ? 僕達転生したのか?」

「どちらかというと転移だね。クラス転移ってやつ。ゲームを終えたクラスメイトも後からこの世界に来ると思うけど、チートを持っているのはこの場に居る人達だけだよ」

 異世界……ここが……
 つまり僕らだけがチートスキルを使って好き放題できるってわけか。
 そして後から来たクラスメイトはその力を持っていない。

「更に良い事教えてあげる」

 リースは口元でにやりと邪悪な笑みを浮かべる。

「貴方達が勝ちを得たのは第1ゲーム。勝利報酬は転移とスキル付与。残った面々は第2、第3ゲームと進んでいくのだけどどんどん報酬はしょぼくなっていくの」

「……でも結局は全員転移してくるんだろ?」

「まぁ、聞きなさい。第2ゲームでの勝利報酬は転生だけ。しかも魔物の姿で転生されるんだ。チートスキルは無しね」

「ま、魔物!?」
 
 つまり、冒険をしていればその内アイツらの転生した姿と……戦える?

「そして最後の最後まで生き残ったクラスメイトはね、この世界の『魔王』に転生するの。しかもあらゆる悪行を行った後の魔王に憑依する形でね。それがどういうことかわかる?」

「……どんなに改心しても……結局人類に討伐される運命。心の中でどんなに嘆いても……決して許されることのない存在」

「ピンポンピンポン。更に言うと貴方達みたいにチートスキルはないから、アンタ達から見たら普通の魔力を持った雑魚ってわけさ」

「…………」

「しかも、前世の記憶は残っている。貴方達は向こうと違って『転移』だから、邂逅した時どんな顔をすると思う?」

「……は……はは……」

「楽しくなってきたでしょ?」

 楽しくなってきたかだって?
 最っ高だよ!
 僕の手で、あいつらに復讐できるかもしれない。
 魔王になったあの女を勇者になった僕がぶっ倒せるシナリオが出来ているってことじゃないか!

「最高だ……最高だよリース。なあ! みんなもそう思うよな!?」

 振り返り、クラスメイト達の顔を見ると、皆虚ろな瞳で俯きながら口角を上げていた。
 復讐を出来る喜びに震えている。

「さっ、楽しい冒険の始まりだよ。楽しい冒険にしていこうね。目指すは魔王討伐だー!」

「おおー! って、リースもついてくるの!?」

「当たり前じゃない。この物語を作ったのは私なのよ。最後まで見届けるに決まっているんだから」

「まぁ、いいけど。んじゃいくか。裏切られ勇者一向で魔王討伐といきますか」

 リースを含めたチートスキル持ち一向でパーティを組む。
 こうして僕達の異世界での冒険が幕を開けることになった。


 僕は遠くの空を見上げながら、今も地獄のゲームに立ち向かっているクラスメイトの顔を思い浮かべていた。
 僕を裏切った、愛しいキミ。
 

 ——ああ

 ——どうかキミだけは

 ——最後まで生き残ってください

 ——最後までゲームに勝ち乗り、この世界の魔王として転生してください
 
 ——あの日裏切ったことを後悔しながら、この僕に殺されてください

 
 強く——強く——願う。