——ああ

 ——どうかキミだけは

 ——最後まで生き残ってください






 僕ら天成学園3-A生徒37名は見知らぬ場所で目を覚ましていた。
 先生が病欠で自習となった僕らは騒がしく教室で過ごしていたはずだった。
 だけど突如白い光に包まれて、同時に身体が焼けるような痛みに襲われたことだけは薄っすらと覚えている。

「初めまして。皆さん」

 訳が分からない状態で狼狽していると、見たことのない美女が目の前で微笑んでいた。
 日本ではまず目にかかるのことない長い銀髪。
 その微笑みからどこか気味の悪さのようなものを感じたのは僕だけだろうか。

「私は転生の女神、名はリース」

 女神と自称する美人さん。
 確かにどこか神々しさを感じる不思議な人だ。

「運が悪かったねキミ達。私の暇つぶしにちょっと殺し合いゲームをやってもらうから」

「「「……はっ?」」」

 意味が分からない。
 急に知らない所で目覚めたと思ったら女神様に殺し合いを命じられる。
 夢にしてももっとリアリティも持たせて欲しいものである。

「いやいやいや。おねーさん何を言ってんの? 殺し合いとか意味わからんし。道徳って知ってる?」

 クラスのお調子者の沢田君が果敢にも自称女神に絡みに行っている。
 
「知らなーい。えい」

「————へっ?」

 ……えっ?
 僕ら全員は目を疑った。
 リースの右手には眩く光る剣のようなものが握られており、それを一振りしただけで沢田君の首が胴体から切り離されていた。
 壊れた水道管のように首から大量の血が噴き出している。
 飛んできた血が僕の手に付着する。夢にしてはリアルすぎる感触だった。

「「「きゃああああああああっ!!!」」」
「「「うわああああああああっ!!!」」」

 誰かが叫ぶのを皮切りにその場にいた全員が絶叫を上げていた。
 し、死んだ? 沢田が? クラスメイトの首が飛ばされた?

「はい静かにー。これでわかったでしょ? キミら死と隣り合わせの状況なの。死にたくなかったら私の言うこと聞いてね」

 ほとんどの生徒が腰を抜かして恐怖で顔を引きつらせている。
 少しでもリースの機嫌を損ねるようなことをすれば、次は自分の首が飛ばされると本能が理解したのだ。

「んじゃ。まず5人組作って5人組。1分以内ね。はい、はじめ」

「「「……っ!」」」

 わっ、喧騒を立てて皆一斉にグループ結成を始める。

「み、三浦くん! 三浦君もこっちに!」

「う、うん! ありがとう橘さん!」

 たまたま近くにいた委員長の橘歩美さんに拾われ、僕——三浦順平はクラスの優等生グループに混ぜてもらえることになった。
 友達の少ない僕にとってそれは救いの手だったと思う。
 なぜなら——

「あ……あ……っ!」

 沢田君が死んで現在3-Aの人数は36名。
 どうしても一人余ってしまう計算になってしまうからだ。
 余ってしまったのは沢田君の幼馴染、内山裕子さん。
 沢田君の死が受け入れられず、ずっとその場に蹲っていた彼女が自然と余ってしまった。

「5人組作れたかなー? あれ? 作れてない人、いるね? そんなに反抗的な子は~~」

 リースの持つ剣が今度は棍棒のような鈍器に変容する。

「い、いや……! いやああああああ!!」
 
 クラス一同の脳裏に彼女の末路が過る。
 それは非情な形で現実となった。

「——さっさと死んでね」

 棍棒が振り下ろされた瞬間、内山さんの脳天は二つに割れていた。
 潰れる、とかじゃなく、左右に割れる。
 狂った芸術品のようなクラスメイトの死骸に、またも全員の悲鳴が鳴り響いた。

「さて、ゲーム始めるよ~。ゲームを突破出来た人にだけ異世界に転移させてあげるから。チートスキルのおまけ付きでね」

 みんなの阿鼻叫喚など聞こえていないかのようにリースはマイペースにゲームを進行する。

「さて、異世界活劇って言ったら勇者パーティからの追放だよね。リース追放モノだーい好き」

 『追放』
 その言葉を聞いてなぜか背筋が凍るような緊張が奔る。
 とてつもなく嫌な予感がした。

「というわけで、第1のゲームは~! 追放ゲームで~す!」

 女神リースは繰り出す残酷な殺し合いゲーム。
 それは単純でありながらあまりにもショッキングな内容だった。
 
「今から3日後、投票でグループ内から1人処刑される人を決めてもらいまーす」




    ◇  ◆