「あ……みなさん、装備は確認しましたか?」
スダは平然とした口調でゲームを続ける。一方で、教室の空気は一層重苦しくなっていた。
草刈り用の鎌もある。
「なんだよ、兵隊は拳銃とか持ってるってのに」
他のメンバーもおそるおそるナップサックを開け始める。中には包丁やカッター、髭剃りの替え刃、トンカチ、キリなど、実用的とは言えない「武器」が入っていた。
ハルキの手に渡ったのは縄跳びだった。
「こんなんでどうやって……ハルキにはお似合いだけどね?」
権野が苦笑を浮かべると、他の数人も追随して笑った。
ハルキは黙ったまま俯く。サークル内での「いじられ役」としての自分の立場を、彼は痛感していた。言い返すこともできず、ただその場に立ち尽くす。
ハルキがターゲットになれば自分への攻撃が和らぐことを内心でほっとしているものもいる。
「フェアじゃないわ……こんなの、みんな武器を捨てましょう。差がありすぎる」
葉月が剣山を手にしながら訴える。
「そんなことしてたら、あっという間に12時間が経つぞ。それで全員死ぬんだ」
権野はそう吐き捨てる。
「それでも、みんなで助かる方法を考えましょう!」
その行動に影響されたように、 それぞれの「武器」を床に置き、元の立ち位置に戻る。
するとサークル長の原沢雫が何かに気づいたようで顔色を変えた。
「ちょっと待ってみんな……気づかなかった……」
教室中の視線が雫に集まる。
「どうしたんだよ……リーダーがそこで動揺していいのか?」
権野が再び金属バットを握りしめた。
雫は深呼吸を一つし、震える声で言った。
「……先生がいない。梶原先生が……」
その言葉に一同はハッとしたように動きを止める。
「あいつだけ逃げたんじゃね?」
「卑怯だよな。梶原ってそういうとこあるし」
男子たちの間から、軽蔑混じりの声が上がる。
スダが口元に薄く笑みを浮かべながら言った。
「そうですね。実は彼が最初に目を覚ましてしまいましてね……催涙ガスの濃度を上げたんですが、どうも効き目が弱かったようで」
「彼にはルールを先に説明し、装備品も渡しました。でも、ありえない、出せ、頭がおかしいのか、と……なかなか強烈なクレームをいただきましてね」
スダの話を聞きながら、一同は梶原の様子を思い浮かべる。
ハルキは思い出した。梶原先生は女子には丁寧で親切だったが、男子、特に弱い立場の生徒には横柄で見下すような態度を取っていた。自分も何度かタメ口で指図された記憶がよみがえる。
スダは淡々と続ける。
「それで、立ち向かってきたんですよ。結果として、こうなりました」
スダはゆっくりと掃除用具入れを開けた。中から転がり出たのは、血まみれの梶原先生の遺体だった。
「嘘でしょ……」
教室中に悲鳴が響き渡り、恐怖と絶望がピークに達する。
スダは梶原の遺体を一瞥し、何事もなかったかのように掃除用具入れの扉を閉めた。
「……こうなりました」
彼の冷淡な一言が教室の空気をさらに凍りつかせた。
そしてまた兵隊たちが黒い布をバッと被せた。