「……祥子……祥子……」
さっきまでドン引きしていた女子たちも、その中で馬場芽美は１番の仲良しであったため１番に倒れた祥子に駆け寄り、震える声で呼びかけていた。
「芽美、もう無駄よ」
と雫が声をかけると芽美は呆然とする。

「オーストラリアなんて聞いてないし」
どうやらオーストラリアへの卒業旅行にはさそわれていなかったらしい。

その様子を少し離れたところから見ていたレナミが、鼻で笑う。
「バカじゃないの、この見栄っ張り女。倒れたからって、今さら同情しても仕方ないでしょ」


その瞬間、スダが軽く手を叩いた。
「さて、次に進みましょうか」

兵士たちが再び動き出す。それぞれの手には黒いナップサックが握られており、教室の生徒たちに乱雑に配り始めた。

「この中には武器が入っています。ランダムですよ、何が入っているかはお楽しみ」
そう言いながら、スダは権野を指差した。

「ほら、あなたのナップサック、もう見えてますね。金属バットですね」

権野はゆっくりと中を確認し、言葉を失ったようにバットを取り出す。

「……殴り殺せってことかよ……誰かを」
声が震えている。

「まあ、そういうことですね」
スダは黒板に向かって何かを書こうと試みていた。

しかし、触れるたびにチョークは砕け、教室の床に白い粉を散らす。

「……このチョーク、どうなってるんだ。まともに書けないじゃないか！」
スダは小さく舌打ちをしながら、最後の一本を取り上げたが、それもすぐに粉々になり、床に叩きつけられた。

「まあ、いいでしょう。黒板なんて必要ありませんよね、皆さん賢そうですし」

その言葉に誰も返事をしない。冷たい沈黙だけが教室を支配していた。

スダは軽く息をつきながら続けた。
「あ、そうそう。重要なルールを一つ追加しておきます。万が一、僕の心肺が止まることがあったら……皆さんの首輪が、爆発します」

スダの背後に立っていた権野が手にした金属バットを振りかざそうとしていた。しかし、その言葉を聞いた瞬間、彼の手からバットが滑り落ち、教室の床に鋭い音を響かせた。

「どうかしましたか？」
スダが背後に振り返りながら微笑む。

「い、いえ……なんでもありません……」
権野は怯えたように後ずさる。その顔から血の気が引いているのが明らかだった。

スダは首を傾げ、薄く笑った。
「そうですよね。賢明な判断です」

教室は再び静寂に包まれるが、その空気は以前にも増して重苦しいものになっていた。

スダはその場を歩き回りながら、柔らかな口調で語り始めた。
「さて、もう一度言います。ルールは簡単です。最後の一人になるまで。もちろん12時間以内に一人になってください」

生徒たちの表情に絶望が浮かぶ中、スダはデジタル時計を指差した。
「時間は刻々と過ぎています。全員生き残るなんて幻想は捨ててください。このゲームの目的はただ一つ――自分以外の全員を排除すること。」

教室の壁に掛けられた大きなデジタル時計が、無情にも進み続けていた。
残り時間：10時間49分12秒

スダはそれを確認し、小さく手を叩いて締めくくるように言った。
「では、皆さん。楽しい時間をお過ごしください」

その声が教室に響いた瞬間、重苦しい沈黙が再び全員を飲み込んだ。