美鶴はスダの視線を振り払うかのように、べらべらと話し続ける。
「まあ、こういうのってね、楽しいんだよ。こいつらバカみたいに踊るしさ、簡単に利用できるし。信成子ちゃんもさ、結局俺たちに……」

その瞬間、時雄が美鶴に飛びかかり、隠し持っていた包丁を振りかざした。
「信成子を……返せ……!!!」

美鶴は咄嗟に後ろへ飛び退いた。
「へえ……やるじゃん。さすが日頃からいじめの先頭に立ってただけのことはあるな。けど……その程度で俺をどうにかできると思うなよ」

時雄は何度も、何度も包丁を振り下ろすが、美鶴は避け続ける。
「俺地味に見えてもさ、極真空手やってたもんでね」

周囲の者たちは静観し続けている。権野も、華子も、そしてスダも。華子は一瞬動こうとしたが、時雄の狂気じみた表情に息を呑み、その場で立ち尽くした。

「信成子……返せぇぇぇぇぇ!」

時雄が再び包丁を振り下ろした瞬間、美鶴は懐から隠し持っていた刃物を取り出し、時雄の脇腹を深く刺した。
「お前ら、バカだよ……本当に……」

時雄は呻き声を上げながら後退し、やがて崩れ落ちた。美鶴は勝ち誇ったように笑い、吐き捨てる。
「こんなもんだよな、お前らの……」

その瞬間、権野が拳を振り下ろし、美鶴を殴り倒した。
「黙れ、このクソ野郎……!」

美鶴は鼻血を流しながら床に転がり、呻き声を上げる。

「時雄! 時雄!!!」
時雄は権野の腕の中で弱々しく呟いた。
「……信成子……最近、様子おかしくってよ……俺のこと、避けてばかりで……させてくれなくて……」

教室は凍りついた。権野や周囲のメンバーの顔が青ざめていく中、時雄はさらに続ける。
「無理やり……しちゃったんだよ……俺……最低、最悪だよな……」

涙が一筋、頬を伝う。
「信成子……ごめん……な……」

そう言い残し、時雄は息絶えた。

教室の中に沈黙が訪れる。スダは一歩下がり、冷めた目でその光景を見つめていた。
「結局……こうなるんですよね。いつだって、バカが……」

スダの言葉が虚しく教室に響き渡った。