「次は何だ!」
権野が声を上げると、葉月が叫んだ。
「胡桃の首輪よ!」

教室の全員が胡桃の方を見る。彼女はまだ尻山が目の前で死んだ衝撃で気絶しているままだった。

「葉月さん、胡桃さんから離れて!」
ハルキが焦った声を上げるが、葉月はその場を動けない。どうすればいいのかわからず、ただ呆然と胡桃の体を抱えたままだ。

胡桃の首輪のアラーム音は耳をつんざくように大きい。それは芽美の首輪が作動したときと同じ音だった。全員の顔に緊張が走る。

「おい、スダ。あれは何だよ。胡桃はまだ生きてるんだろ? なんで装置が作動してるんだ!」
真威人が怒りに満ちた声でスダに詰め寄る。しかし、他の数人はすでに胡桃から距離を取っていた。芽美の首輪が爆発した瞬間を見ていたからだ。

スダは軽く肩をすくめ、あっけらかんとした口調で答える。
「ああ、忘れてました」

その無責任な態度に、権野が真威人の肩を掴んで引き止める。
「よせよ。お前まで手を出して、みんな巻き込んだらどうするんだ。正義感ばっかり振り回すな!」

「ルールは全部言えよ! 後出しなんてふざけてるだろ!」
真威人がこれまでに見せたことのない激しい怒りをあらわにする。その表情は、普段ガキ大将のような権野が見せるものに近かった。

それほど、この状況は全員の感情を揺さぶるほど酷なものだった。

スダは呆れるようなため息をつきながら口を開く。
「すいませんねー。説明忘れてたんですが……首輪をつけてる人が目を閉じて、かなりの時間が経つと、ゲームを放棄したとシステムが判断するんです。だから首輪が爆発するんですよ」

その言葉に全員が息を呑む。葉月は震える手で胡桃を揺さぶった。
「胡桃、起きて! お願い、目を開けて!」

だが胡桃は反応しない。アラーム音はますます大きくなり、教室の緊張は頂点に達していた。


「もしかしたら……ゲームを放棄すると……」
時雄が耳を塞ぎながらつぶやいたが、その小さな声は誰にも届かなかった。

「こんなに鳴ってるのに、なんで目が覚めないんだよっ! 胡桃!」
真威人が胡桃の元へ駆け寄ろうとする。

「やめろ、真威人!」
ハルキと権野が声を上げて止めようとしたが、真威人は二人をすり抜けて胡桃のそばにたどり着いた。

「葉月さん、下がれ! なあ、起きろよ! まだ生きてるんだろ!」
真威人は葉月を突き飛ばし、胡桃の体を激しく揺さぶった。

「胡桃! 胡桃ぉおおお!」
鳴り響くアラーム音はますます大きくなり、教室中の空気がピリピリとした緊張感に包まれる。周囲の人たちは耳を塞ぎながら耐えるしかない。

スダは無表情のままその光景をじっと見つめている。

「やめろ、真威人……! これ以上近づいたら……!」
ハルキが必死に声を上げるが、その声もアラーム音にかき消された。

その時、胡桃の瞼が微かに動いた。
「ま……」

その瞬間だった――

ばしゅっ!!!

轟音と共にアラーム音は止まり、教室には一瞬の静寂が訪れる。そして次に響いたのは――

「いやあああああああーーーー!!!」
葉月の悲鳴だった。

ハルキが駆け寄ろうとするが、権野が素早く動き、葉月を抱き寄せる。
「見るな……葉月、お前は見るな」
権野は葉月を守るように抱きしめ、胡桃と真威人の姿を彼女の目から隠した。

二人は黒い布で覆われ、もう動かなかった。