『ある本』は「著者Nの体験9」で終わっていた。末尾に「行方不明のN先生に捧ぐ:編集Y」と残して。『ある本』には始めから救いの章など存在しなかった。それどころか、謎を解き明かしても無意味だと断言して終わっていた。
 
 ここまでくれば、皆さんはもうお分かりだろう。『ある本』の目的は白い女の怪異から誰かを救うことではない。白い女の怪異を広く知らしめることなのだ。
 でも私は違う。なぜなら私も、白い女の怪異に悩む一人だからだ。だからぜひ、皆さんの持つ情報が欲しい。一見関係ない話でも、ネットの海のどこかで見かけた不確かな情報でも構わない。とにかく救いとなる情報をお待ちしている。
 もとは山の神であれ、生贄として生きたまま地中に埋められ無残に将来を奪われていった女たちの集合体であれ、人々が恐れ語り継ぐことで生まれた怪異なら、それを何とかできるのも語り継ぐ人々であると私は思う。

 そうアナタも無関係ではない。

 掲示板、動画サイト、フェイスブック……現代はこれまでのどの時代よりも情報が大量に迅速に、歯止めが利かずに出回っていく時代だ。そして誰もが簡単に、それらの膨大な情報にアクセスできる。ならばもう、白い女の怪異はアナタの肩を叩いているかもしれない。

 なぜなら現に、アナタは名の無い私の書いたこの物語を、こうして読んでしまっているのだから。