パソコンのスクリーンに映ったのは、なんとも面妖なラーメンだった。透明感の無い真っ白なスープに、黒い髪の毛のような麺が蜷局を巻いている。
 トッピングはヌメヌメとした茶色い茸に、砕いた木の実のようなもの。それからほんのりピンク色をした肉とウズラの卵が二つ。
上京した地方出身の店主が、故郷を思い出して作った一品らしい。スープは××(企業秘密)の骨を大量に長時間煮込んで出汁を取っているそうだ。まるで骨そのものが水に溶けてしまったような色だった。白さに拘り、味つけは塩と白醤油を使っているとある。
 
 おいしいのだろうか。
 
 ラーメンは澄んだ醤油スープにストレートの細麺、トッピングにはネギとピンク色のナルトとメンマに海苔、チャーシューが正義と思う私には、真っ白ラーメンなるものは邪道だった。正直、食指が動かない。
 だがインパクトのせいだろうか。真っ白ラーメンの画像には妙な吸引力がある。店の外観写真を見てみる。山奥にありそうな、今にも崩れ落ちそうな木造の店だ。ぼろさに反してレビューの数はそれなりだ。

「見た目は髪の毛みたいで微妙だが、濃厚でおいしい」
「思ったよりコシのある麺に、とろりとしたスープがあう」

 などと、なかなかの高評価だった。一方で、

「奇抜すぎる」
「普通に黄色いストレート麺が食べたい」
「スープが若干、臭い?」

 という微妙な評価も多い。中には

「目玉がぎょろぎょろするくらいおいしい」
「山に帰りたくなる美味さ」
「食べていると囁きが聞こえてくる」

 なんて異様なコメントもあった。変なモノが流行ってるな。などと思いつつ、私は脱線をやめて、パソコンの電源を落とした。

 そろそろ『ある本』を読み進めるべきだろう。
だが、はっきり言って怖い。読み進めたら本当に何かが起こるのではないか。そんな懸念は強くなるばかりだ。どうせフィクションと笑い飛ばすには、色々と符号が合いすぎている。
 とはいえ、ここまで読んだからには先が気になるのも確かだ。この先のページに救いがある事を祈りつつ、私は読み進める事にした。