例えば一人暮らしのアパートの部屋や人気の無い夜道で、ふと白い影がよぎった経験はないだろうか。
目の病気か、ゴミでも飛んできたのか。いいや猫かもしれない。あなたはそんなことを思いながら、なんとなく振り返る。
するとそこにいるのだ。闇に青白く浮かび上がる髪の長い女が――。
いつからいるのか、どうしているのか。
女は気づくとそこにいて、じぃっとこちらを覗っている。
そんな経験が数回、十数回と重なるうちに、あなたはあちら側に足を踏み入れている。そして二度と戻ってこられず、闇をさまよう数多の影の一つとなる。
本書は細々と怪談を執筆している筆者に送られてきた、白い女にまつわる怪談をまとめた記録である。
まだ白い女を見たことがない方は、できればこれ以上、本書を読み進めないで欲しい。
というのも、この怪談は知るだけで障る類の話だ。それも最悪の場合、死ぬよりも恐ろしい目に遭うかもしれない。筆者の知る限りでもすでに十名余りが身心を壊し、死亡し、あるいは行方不明となっている。
それでも知らずにはいられないなら、どうぞ白い女にまつわる物語の顛末を見届けて欲しい。ただし、好奇心は猫を殺すという言葉を肝に銘じ、自己責任でお願いする。
本書を読み進めているうちに夜中に妙な物音がするようになった、低い、あるいは甲高い話声のような空耳が聞こえ始めたなど、なんらかの異変が生じた場合は一度、本を閉じることをお勧めする。
もしも、白い影が視界を掠めるようになったら要注意だ。
あれがアナタを見つけてしまったかもしれない。
そのうちに自分あるいは同居する家族の心身に、不調が現れるだろう。その時はなるべく早く、寺院等の然るべき場所でお祓いを受けることをお勧めする。
最後に、この本の内容を口外することはお控えいただきたい。(決して本が売れなくなるといった、ケチな理由ではないことを言い添えておく。念のため)
ならばなぜ本を出したのか。当然、疑問に思われるだろう。あるいは、よくある思わせぶりな商法だと嗤う、穿った読者もいるかもしれない。
本を出したのは、そうせずにはいられなかったとしか言いようがない。出した以上は、僅かでも誰かの役に立てばと願うばかりである。
では、多少の危険を冒してでも怖い話を読みたい命知らずな方、すでに白い女の怪異に遭遇してしまった方はぜひ、ページを進めていただこう。
筆者が白い女の怪談を追うきっかけとなったのは、一通の長い手紙だった。手紙の主は中学二年生の少年で、仮にA君と呼ぶ。
A君は筆者に相談めいた長い手紙を寄越し、数年越しに文通をした後、行方不明となった。もう七年も前のことだ。当時は誘拐が疑われ警察が動いたが、A君は今も見つかっていない。
A君からはあらかじめ、名前を伏せたうえで手紙の内容を公開することに同意をもらっている。
彼は筆者をうだつの上がらない怪奇作家と知ったうえで、公開を前提に手紙を寄越してきたのである。
目の病気か、ゴミでも飛んできたのか。いいや猫かもしれない。あなたはそんなことを思いながら、なんとなく振り返る。
するとそこにいるのだ。闇に青白く浮かび上がる髪の長い女が――。
いつからいるのか、どうしているのか。
女は気づくとそこにいて、じぃっとこちらを覗っている。
そんな経験が数回、十数回と重なるうちに、あなたはあちら側に足を踏み入れている。そして二度と戻ってこられず、闇をさまよう数多の影の一つとなる。
本書は細々と怪談を執筆している筆者に送られてきた、白い女にまつわる怪談をまとめた記録である。
まだ白い女を見たことがない方は、できればこれ以上、本書を読み進めないで欲しい。
というのも、この怪談は知るだけで障る類の話だ。それも最悪の場合、死ぬよりも恐ろしい目に遭うかもしれない。筆者の知る限りでもすでに十名余りが身心を壊し、死亡し、あるいは行方不明となっている。
それでも知らずにはいられないなら、どうぞ白い女にまつわる物語の顛末を見届けて欲しい。ただし、好奇心は猫を殺すという言葉を肝に銘じ、自己責任でお願いする。
本書を読み進めているうちに夜中に妙な物音がするようになった、低い、あるいは甲高い話声のような空耳が聞こえ始めたなど、なんらかの異変が生じた場合は一度、本を閉じることをお勧めする。
もしも、白い影が視界を掠めるようになったら要注意だ。
あれがアナタを見つけてしまったかもしれない。
そのうちに自分あるいは同居する家族の心身に、不調が現れるだろう。その時はなるべく早く、寺院等の然るべき場所でお祓いを受けることをお勧めする。
最後に、この本の内容を口外することはお控えいただきたい。(決して本が売れなくなるといった、ケチな理由ではないことを言い添えておく。念のため)
ならばなぜ本を出したのか。当然、疑問に思われるだろう。あるいは、よくある思わせぶりな商法だと嗤う、穿った読者もいるかもしれない。
本を出したのは、そうせずにはいられなかったとしか言いようがない。出した以上は、僅かでも誰かの役に立てばと願うばかりである。
では、多少の危険を冒してでも怖い話を読みたい命知らずな方、すでに白い女の怪異に遭遇してしまった方はぜひ、ページを進めていただこう。
筆者が白い女の怪談を追うきっかけとなったのは、一通の長い手紙だった。手紙の主は中学二年生の少年で、仮にA君と呼ぶ。
A君は筆者に相談めいた長い手紙を寄越し、数年越しに文通をした後、行方不明となった。もう七年も前のことだ。当時は誘拐が疑われ警察が動いたが、A君は今も見つかっていない。
A君からはあらかじめ、名前を伏せたうえで手紙の内容を公開することに同意をもらっている。
彼は筆者をうだつの上がらない怪奇作家と知ったうえで、公開を前提に手紙を寄越してきたのである。