君の匂いを知っている


「ただいまー」

 家に帰ってくると、リビングのわいわいとした明るい声が廊下に漏れ出ていた。
 玄関で濡れたリュックを逆さにして置き、靴下を洗濯機の中に投げ込んでから手を洗ってリビングにつながるドアを開ける。
 そこには実里、りさ、そしてなぎが楽しそうに食卓を囲んでいた。

「え、打ち解けんの早……」
 呆れと驚きが混じった声を漏らす昴に、一拍置いて実里が口を開いた。
「何言ってんの、なぎくんは—」

「ちょ、実里(みのり)さん! 良いですって」
 なぎが慌てて言葉を遮ると、実里はくすっと笑って立ちあがろうとした。
「夕ごはん冷めちゃったから温めるわ!」
「自分でやるからいいよ」
 そう言って昴はキッチンへ向かう。
 プレートをレンジで温めている間に、炊飯器から米をよそってお茶も用意する。
 チン、と機械的な音が鳴り、温まったプレートが温まるとテーブルに運び、席に着いた。
「いただきます」

 クリスマスにステーキ。ありきたりなメニューだけど、こういうのが一番美味しかったりする。
 肉を米と一緒にかき込むと、肉汁が染み込んだ米が口の中でとろける。
 実里は元定食屋の店主。肉の焼き加減が絶妙で文句無しに上手い。
 無言で黙々と食べていた昴だったが、気付けば十数分で完食していた。
「……昴、食べるの早いわよ」

 実里の突っ込みに昴は苦笑いで返す。
「昴、なぎくん、まだ食べれる?」

「全然食えます!」
「俺もいける!」
「りさも食べれるー!」

「クリスマスだし、ピザとポテト出してあげるわね」

 明らかに太る食べ物の組み合わせ。しかも、ステーキと米をしっかり食べた後にこのメニュー。

 ——だが、なぜかここには太らない体質の子供しかいない。昴を含む三人は皆どれだけ食べても太らない。
 これを『勝ち組遺伝子の力』という。


 実里が食べ物と飲み物を用意している間に、昴は一旦自分の部屋に帰ることにした。
 玄関に中身を出して乾かしていたリュックを自分の部屋に持って帰って、テキストを本棚に並べる。スマホを充電器に挿して、ベッドに横になった。




 ミントのような、さっぱりとした匂いで目を覚ました。
 それは隣にいるなぎから漂っていた。

 しまった、寝るはずじゃなかったのに……。
 昴が体を起こすと、時計はすでに夜の十時を回っていた。

 リビングに光は無く、実里もりさも寝てしまっているようだ。
 
 昴はなぎを起こさないように、そっと布団を抜け出してお風呂に向かった。