四話
目が覚めると隣に、梛がいる。非日常だったものが、段々と日常に移り変わっている。梛がいる事が、当たり前になってきている。
隣にいつも誰かがいる、というのは案外良い物だ。梛のおかげで、最近は全然女の子と遊んでいない。遊ばなくても大丈夫になってきた。元々、自分からナンパすることはなかったけど、ナンパされても梛がいるから早く帰りたいと思うようになった。
朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。昨日の夜、しっかりカーテンを閉められていなかったんだな。
カーテンを閉めに行こうとすると梛が俺の服をぎゅっと掴んで、すやすやと寝息を立てていることに気付いた。まぁ、カーテンは閉めなくても良いか。別に、そこまで眩しくは無いし。
梛の隣に寝転がって、梛の髪に手櫛を入れる。同じシャンプーとトリートメントを使っている筈なのに、梛の方がサラサラで触り心地が良い。相変わらず、綺麗な髪だ。
梛の頭を撫でると、寝ぼけながらも嬉しそうに手に頬擦りをする。
初めは俺の事を毛嫌いしてくる、勝手に俺の取っておいた牛乳プリンを食べたりする嫌な奴だと、少し鬱陶しかったけれど、今はどうも可愛く見える。
梛は身長も体も、小さい。心配になるくらいに痩せ細っている。
梛から聞いた話が頭から離れない。想像以上に、梛の過去は重い物だった。そんなに重い荷物を、梛はたった一人で抱えてきたんだ。
俺は、梛と全く同じ気持ちにはなれない。違う人間なんだから、同じ事を経験したわけじゃ無いのだから。当たり前にわかるはずもない。
経験してなくても、梛は言葉にできないほどの苦しさを味わった、これだけはわかる。
だからもうこれ以上、梛がしんどい思いをしないように生きて欲しいと俺は願う。
昨日、梛が「じゃあ、お前がなってくれんの?」と言った事。俺は良いよと返したけれど、後から考え直してみると話の流れ的には恋人になってくれんの?ということだったんだろう。
心なしか、良いよと俺が返した時の梛の顔は赤く火照っていたような気がする。
俺も、梛の事を少し意識してしまっているみたいだった。元々恋愛対象は女だった。なのに、今俺は梛の事が好きなの『かも』しれない。
確定では無いし、断言することはできないけれど、そうである可能性はだいぶ高い。
男である梛を好きになったら、これから苦労するだろうなぁと俺は苦笑した。
「ん……昴……おはよ」
「おはよ、梛」
よしよしと梛の頭を撫でると、嬉しそうに笑う。それからハッとして「あ、そうだった。昴に誕生日プレゼント渡してなかった!」と梛は玄関の方に向かった。
「え? 用意してくれたんだ」
「当たり前だろ?」
梛は少し経って黒い箱を持って返ってきた。この箱、玄関で見たと思ったら俺へのプレゼントだったのか。
「初任給で買いました!」
どうぞ、と手渡される。サイズは小さいから、何が入っているのか全く見当もつかない。
開けて良い?と問うと梛は頷く。
お洒落なシールを破らないように丁寧に剥がすと、箱を開ける。箱の一番上にはメッセージカードが乗っていた。達筆な字で、『お誕生日おめでとう、いつもありがとう』と書いてあった。
簡潔だけど、しっかり梛の気持ちが伝わって嬉しくなった。
メッセージカードをテーブルに置いてその下のプレゼントを取り出す。
プレゼントはチョーカーだった。真っ黒で、止める部分が猫の形の穴になっている。シンプルなのに、それと同じくらい可愛いデザイン。
早速つけてみる事にする。丁度良いサイズでしっくりくる。初任給でわざわざ俺のためにプレゼントを買ってくれるなんて、胸がきゅっと痛みを叫ぶ。嬉しい筈なのに、胸が痛くなるなんて変な話だ。
梛がくれたチョーカーのおかげで、俺も忘れていたプレゼントを思い出した。
「あ、俺も梛にあるよ」
玄関の近くの部屋にこっそり保管していたピアスのお礼。俺は梛に箱を手渡した。
「これ、俺に……?」
「じゃなきゃ渡さないって!」
俺は「そう、お前に」と付け足した。すると、梛は嬉しそうに目を輝かせた。
「ブレスレット……?」
「そう、似合いそうだと思って」
「……! 大切にする!」
梛は手首に銀色の細いブレスレットをつける。血管の浮き出た手首に、よく映えた銀色。ほら、やっぱり似合ってる。
梛が顔を綻ばせた丁度その時、カレーの材料を買ってくるのを忘れていた事に気付いた。申し訳なかったけれど、俺は梛にちょっと買い物行ってくると言って家を出た。
カレールーと、じゃがいも、にんじん、肉、玉ねぎを買った。ついでに梅酒。最近は飲めていないから、久しぶりに帰ったら二人で飲めたら良いなぁ、と思ったからだ。
よくよく考えてみると自炊を再開するようになったのも、梛のおかげなんだな。一人暮らしになってからはずっと、まともに自炊しなかったから。
ふは、と笑いが溢れる。
トントンと背中を叩かれて振り向くと、りさと同じくらいの女の子が立っていた。「お兄さぁん、ちょっと暇?」と首を傾げる。
「……?」
「あたしと一緒に遊ばない?」
その誘いを断る理由は無かった。付き合っている人もいない、この状況なら誰にも咎められない。
早く梅酒を冷蔵庫に入れたいな、と思っていただけだった。頷こうとすると、ふいに梛の顔が頭によぎった。
すると、誰かに背中にぎゅっと抱きつかれた。
「誰……って、梛?」
後ろを見ると、そこには梛がいた。なんでこんなタイミングで来るんだろう。偶然か、必然か。でも、来てくれてよかった。
そうだよな、この誘いに乗るようだったら誠実じゃ無い。少し前の俺だったらそんな事考えもしなかっただろうな。俺はお前に変えられてしまった、全部良い方向に。
「お兄さん、早く行こーよっ」
「……付き合ったら、遊びに行かなくなるの?」
ぼそっと、梛が呟いた。俺に聞こえるぐらいの声量で。
「遊びたいなら、俺で良いから……何でもしていいから行かないでよ」と、続ける。
そんな梛に俺は何も言えなかった。俺は遊びたいわけじゃ無い、誘われたからそれに乗るだけ。遊ぼうって誘われたから応じるだけ。
「俺、昴とならキスも出来るよ」
俺はその言葉を聞いて、ごくっと息を飲み込んだ。梛は俺の事が好きなんだと知った瞬間だった。必死そうに「だから、だから……!」と焦っている梛を見て、本気なんだとわかったのだ。
それを見ていると、どうしようもなく愛おしくなった。守りたい、幸せにしたい。その感情の次に出てきたのは『好き』だった。もう、好き『かも』じゃない。確実だった。
キスも出来る、梛のその言葉を信じた。それが本当だという保証などないのに、俺は信じ切っていた。だから俺は梛にキスをした。一度だけでなく、執拗に何度も何度も唇を重ねる。ここが外だということも忘れて。
さっき声をかけてきた女の子は「えっ、ちょ、あ、ごめんなさい!!」と顔を隠して走り去って行った。
しばらくして唇を離すと、梛ははぁっと吐息を漏らして、俺の胸にぼふっと倒れ込んできた。その頬は赤く染まっていた。
「……そっちのだとは思ってなかった」
梛の頭をわしゃっと撫でると、梛は心地良さそうに目を細めた。
家に帰るなり、手を洗って部屋着に着替えてベッドにダイブした。敷布団は週に一回は必ず洗うという俺のこだわりのおかげでいつもふかふかだ。梛が俺の上に飛び乗ってきたせいで、「うぇ」と声が出る。
けたけたと声を上げて笑う梛につられて、俺も笑う。平和だな、そう思った。
「そういえば、さ……チョーカー贈る意味って知ってる?」
唐突に梛にそう聞かれて、俺は首を振った。贈る意味なんて考えても見なかった。梛は良かったぁ、と言って肩を撫で下ろした。
「調べないでね」
そう言われると、気になってしまう。押さないでねと言われたボタンが押したくなるのと同じように、調べないでねと言われたら調べたくなる。
スマホをポケットから取り出して、『チョーカー 贈る意味』と打ち込み、検索する。その文字を見て、ニヤッと口角が上がるのがわかる。
梛が「え、まさか調べてたりする?」と嫌そうな顔をする。
「ん? うん」
何でそんなに嫌がるんだろ、可愛い意味だったのに。
「調べないでって言ったじゃん!?……もー、はずかし」
梛は俺の胸にぼすっと顔を埋める。顔は見えないけど、耳は真っ赤だ。
「何で『そばにいたい』の?」
「……お前、からかってるよな」
ここは、梛に言わせたい。恥じらいながら言って欲しい。「ねぇ、なんで?」と続ける俺にようやく梛は口を開いた。顔を上げて、「すき、だもん」と呟く。
「なんて?」
敢えて、わざと聞き直す事にする。
「っ、なんでもない!」
梛は勢いよく顔を背けた。「好きって言った?」と笑うと「聞こえてんじゃん!?」と驚いていた。
「……俺も好きだよ」
梛はぽかんとして「ほんと、に?」と恐る恐る聞き返す。
「そんな、タチ悪い嘘つかねぇよ」
「やった……!」
ぱっと笑顔になる梛と手を絡めて、梛のおでこに唇を落とした。おでこから、鼻、唇と徐々に下に唇を落としていく。驚いたような顔をして梛は、はにかんだ。
「大好きだよ、梛」
「俺も好き」
梛は俺の唇を奪ってそう言った。
そうやって、二人で手を絡めたままお互いの顔を見合って笑い合った。
目が覚めると隣に、梛がいる。非日常だったものが、段々と日常に移り変わっている。梛がいる事が、当たり前になってきている。
隣にいつも誰かがいる、というのは案外良い物だ。梛のおかげで、最近は全然女の子と遊んでいない。遊ばなくても大丈夫になってきた。元々、自分からナンパすることはなかったけど、ナンパされても梛がいるから早く帰りたいと思うようになった。
朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。昨日の夜、しっかりカーテンを閉められていなかったんだな。
カーテンを閉めに行こうとすると梛が俺の服をぎゅっと掴んで、すやすやと寝息を立てていることに気付いた。まぁ、カーテンは閉めなくても良いか。別に、そこまで眩しくは無いし。
梛の隣に寝転がって、梛の髪に手櫛を入れる。同じシャンプーとトリートメントを使っている筈なのに、梛の方がサラサラで触り心地が良い。相変わらず、綺麗な髪だ。
梛の頭を撫でると、寝ぼけながらも嬉しそうに手に頬擦りをする。
初めは俺の事を毛嫌いしてくる、勝手に俺の取っておいた牛乳プリンを食べたりする嫌な奴だと、少し鬱陶しかったけれど、今はどうも可愛く見える。
梛は身長も体も、小さい。心配になるくらいに痩せ細っている。
梛から聞いた話が頭から離れない。想像以上に、梛の過去は重い物だった。そんなに重い荷物を、梛はたった一人で抱えてきたんだ。
俺は、梛と全く同じ気持ちにはなれない。違う人間なんだから、同じ事を経験したわけじゃ無いのだから。当たり前にわかるはずもない。
経験してなくても、梛は言葉にできないほどの苦しさを味わった、これだけはわかる。
だからもうこれ以上、梛がしんどい思いをしないように生きて欲しいと俺は願う。
昨日、梛が「じゃあ、お前がなってくれんの?」と言った事。俺は良いよと返したけれど、後から考え直してみると話の流れ的には恋人になってくれんの?ということだったんだろう。
心なしか、良いよと俺が返した時の梛の顔は赤く火照っていたような気がする。
俺も、梛の事を少し意識してしまっているみたいだった。元々恋愛対象は女だった。なのに、今俺は梛の事が好きなの『かも』しれない。
確定では無いし、断言することはできないけれど、そうである可能性はだいぶ高い。
男である梛を好きになったら、これから苦労するだろうなぁと俺は苦笑した。
「ん……昴……おはよ」
「おはよ、梛」
よしよしと梛の頭を撫でると、嬉しそうに笑う。それからハッとして「あ、そうだった。昴に誕生日プレゼント渡してなかった!」と梛は玄関の方に向かった。
「え? 用意してくれたんだ」
「当たり前だろ?」
梛は少し経って黒い箱を持って返ってきた。この箱、玄関で見たと思ったら俺へのプレゼントだったのか。
「初任給で買いました!」
どうぞ、と手渡される。サイズは小さいから、何が入っているのか全く見当もつかない。
開けて良い?と問うと梛は頷く。
お洒落なシールを破らないように丁寧に剥がすと、箱を開ける。箱の一番上にはメッセージカードが乗っていた。達筆な字で、『お誕生日おめでとう、いつもありがとう』と書いてあった。
簡潔だけど、しっかり梛の気持ちが伝わって嬉しくなった。
メッセージカードをテーブルに置いてその下のプレゼントを取り出す。
プレゼントはチョーカーだった。真っ黒で、止める部分が猫の形の穴になっている。シンプルなのに、それと同じくらい可愛いデザイン。
早速つけてみる事にする。丁度良いサイズでしっくりくる。初任給でわざわざ俺のためにプレゼントを買ってくれるなんて、胸がきゅっと痛みを叫ぶ。嬉しい筈なのに、胸が痛くなるなんて変な話だ。
梛がくれたチョーカーのおかげで、俺も忘れていたプレゼントを思い出した。
「あ、俺も梛にあるよ」
玄関の近くの部屋にこっそり保管していたピアスのお礼。俺は梛に箱を手渡した。
「これ、俺に……?」
「じゃなきゃ渡さないって!」
俺は「そう、お前に」と付け足した。すると、梛は嬉しそうに目を輝かせた。
「ブレスレット……?」
「そう、似合いそうだと思って」
「……! 大切にする!」
梛は手首に銀色の細いブレスレットをつける。血管の浮き出た手首に、よく映えた銀色。ほら、やっぱり似合ってる。
梛が顔を綻ばせた丁度その時、カレーの材料を買ってくるのを忘れていた事に気付いた。申し訳なかったけれど、俺は梛にちょっと買い物行ってくると言って家を出た。
カレールーと、じゃがいも、にんじん、肉、玉ねぎを買った。ついでに梅酒。最近は飲めていないから、久しぶりに帰ったら二人で飲めたら良いなぁ、と思ったからだ。
よくよく考えてみると自炊を再開するようになったのも、梛のおかげなんだな。一人暮らしになってからはずっと、まともに自炊しなかったから。
ふは、と笑いが溢れる。
トントンと背中を叩かれて振り向くと、りさと同じくらいの女の子が立っていた。「お兄さぁん、ちょっと暇?」と首を傾げる。
「……?」
「あたしと一緒に遊ばない?」
その誘いを断る理由は無かった。付き合っている人もいない、この状況なら誰にも咎められない。
早く梅酒を冷蔵庫に入れたいな、と思っていただけだった。頷こうとすると、ふいに梛の顔が頭によぎった。
すると、誰かに背中にぎゅっと抱きつかれた。
「誰……って、梛?」
後ろを見ると、そこには梛がいた。なんでこんなタイミングで来るんだろう。偶然か、必然か。でも、来てくれてよかった。
そうだよな、この誘いに乗るようだったら誠実じゃ無い。少し前の俺だったらそんな事考えもしなかっただろうな。俺はお前に変えられてしまった、全部良い方向に。
「お兄さん、早く行こーよっ」
「……付き合ったら、遊びに行かなくなるの?」
ぼそっと、梛が呟いた。俺に聞こえるぐらいの声量で。
「遊びたいなら、俺で良いから……何でもしていいから行かないでよ」と、続ける。
そんな梛に俺は何も言えなかった。俺は遊びたいわけじゃ無い、誘われたからそれに乗るだけ。遊ぼうって誘われたから応じるだけ。
「俺、昴とならキスも出来るよ」
俺はその言葉を聞いて、ごくっと息を飲み込んだ。梛は俺の事が好きなんだと知った瞬間だった。必死そうに「だから、だから……!」と焦っている梛を見て、本気なんだとわかったのだ。
それを見ていると、どうしようもなく愛おしくなった。守りたい、幸せにしたい。その感情の次に出てきたのは『好き』だった。もう、好き『かも』じゃない。確実だった。
キスも出来る、梛のその言葉を信じた。それが本当だという保証などないのに、俺は信じ切っていた。だから俺は梛にキスをした。一度だけでなく、執拗に何度も何度も唇を重ねる。ここが外だということも忘れて。
さっき声をかけてきた女の子は「えっ、ちょ、あ、ごめんなさい!!」と顔を隠して走り去って行った。
しばらくして唇を離すと、梛ははぁっと吐息を漏らして、俺の胸にぼふっと倒れ込んできた。その頬は赤く染まっていた。
「……そっちのだとは思ってなかった」
梛の頭をわしゃっと撫でると、梛は心地良さそうに目を細めた。
家に帰るなり、手を洗って部屋着に着替えてベッドにダイブした。敷布団は週に一回は必ず洗うという俺のこだわりのおかげでいつもふかふかだ。梛が俺の上に飛び乗ってきたせいで、「うぇ」と声が出る。
けたけたと声を上げて笑う梛につられて、俺も笑う。平和だな、そう思った。
「そういえば、さ……チョーカー贈る意味って知ってる?」
唐突に梛にそう聞かれて、俺は首を振った。贈る意味なんて考えても見なかった。梛は良かったぁ、と言って肩を撫で下ろした。
「調べないでね」
そう言われると、気になってしまう。押さないでねと言われたボタンが押したくなるのと同じように、調べないでねと言われたら調べたくなる。
スマホをポケットから取り出して、『チョーカー 贈る意味』と打ち込み、検索する。その文字を見て、ニヤッと口角が上がるのがわかる。
梛が「え、まさか調べてたりする?」と嫌そうな顔をする。
「ん? うん」
何でそんなに嫌がるんだろ、可愛い意味だったのに。
「調べないでって言ったじゃん!?……もー、はずかし」
梛は俺の胸にぼすっと顔を埋める。顔は見えないけど、耳は真っ赤だ。
「何で『そばにいたい』の?」
「……お前、からかってるよな」
ここは、梛に言わせたい。恥じらいながら言って欲しい。「ねぇ、なんで?」と続ける俺にようやく梛は口を開いた。顔を上げて、「すき、だもん」と呟く。
「なんて?」
敢えて、わざと聞き直す事にする。
「っ、なんでもない!」
梛は勢いよく顔を背けた。「好きって言った?」と笑うと「聞こえてんじゃん!?」と驚いていた。
「……俺も好きだよ」
梛はぽかんとして「ほんと、に?」と恐る恐る聞き返す。
「そんな、タチ悪い嘘つかねぇよ」
「やった……!」
ぱっと笑顔になる梛と手を絡めて、梛のおでこに唇を落とした。おでこから、鼻、唇と徐々に下に唇を落としていく。驚いたような顔をして梛は、はにかんだ。
「大好きだよ、梛」
「俺も好き」
梛は俺の唇を奪ってそう言った。
そうやって、二人で手を絡めたままお互いの顔を見合って笑い合った。