君の匂いを知っている



「どこほっつき歩いてたんだよ、朝帰り?」

 結局、バイトが終わった後も風と話を続けているといつの間にか夜の十二時を回ってしまっていて、風の家に泊まらせてもらう事になった。

「……うん」

「連絡くらいしろよ、心配するだろ」

 普段はあんま怒らない昴が、珍しく声を強めているのに気付いて梛の体が勝手にビクッと動いた。心配させたかった訳じゃなくて、ただ昴と合わせる顔が無かっただけなのに。

 昴の事を恒星さんから頼まれていたのに、と梛は自分の事を情けなく思っていた。

「ごめん」

「……っ、なぁ、俺の事避けてる? 嫌いになった?」

「ごめん」

「……そっか、わかった」

 昴は「ごめんな」と家を出て行ってしまった。梛は昴を止める事が出来ないまま自分の部屋に戻って学校に行く支度をする。

 水筒に氷と水を入れてリビングのテーブルの上でリュックの中に入れる。
 テーブルの上で『梛用弁当、昼ご飯に持って行きなよ』と昴の字で書かれたメモとその下にあるお弁当を見つけた。


 昴は、帰って来ない梛のためにも弁当を作ってやっていた。梛は膝から崩れ落ちて、椅子にすがりついたまま涙が止まらなかった。

「昴……ごめんなさい……」