君の匂いを知っている



「まぁ、こんな感じかな」

「そう、だったんですね……」

 恒星さんの話は昴のノートに書かれていたのと、ほぼ同じ内容だった。違う視点からはこんな風に思っていたんだなとわかるとしんどくなった。昴も恒星さんも

「もう、きっと大丈夫だから」

 その恒星の言葉は、梛だけじゃなくて恒星自身にも言い聞かせているように見えた。昴や実里、りさの前では絶対に見せない苦渋の表情をしていた。


 恒星はいつもと同じように優しい笑みを向けた。「わざわざ聞いたって事は、昴を心配してくれたんだよね」

「はい、心配と混乱で頭がぐちゃぐちゃになっちゃって……」

「梛くん、昴の事よろしくね。こんなおじさんよりも同年代の梛くんなら理解し合えると思うから。闘病中の記憶は無くなってるくせに梛くんの事はどうしてか覚えてたんだし。」

「え……?」

 忘れてたのに、俺の事は覚えてた?

 理解が追いついていない梛を見た恒星は付け足す。「病院で、会った事あるんだ。梛くんとは」

「そうなんですか……?」

「昴が手術後目を覚ましてすぐ病室出て走って梛くんの所に行ったんだよ。昴に話しかけられた梛くんは凄い不服そうだったけどね」

 それって、あのノートに書いてあった……!



 ピンと点と線が繋がった。俺はばぁちゃんが亡くなった時に、病院へ行ったんだ。
 その時、絶望していた俺の事を何故か昴は知っていて俺を助けようとした。
 悲しみと辛さと怒りで感情が混ざっていて昴の存在にも気付けていなかった。

 そう言う事だったんだ。ハッキリわかった。



 恒星さんは、そろそろ仕事戻らないと!と一万円札一枚置いてそそくさと去っていった。

「お待たせいたしました、季節のパンケーキセットです!」

 冷めてしまったサンドイッチを頬張る。頼んだ物を味わいながら、梛は恒星のような、余裕のある大人になりたいと思っていた。


 食べ終わって、会計を済ませて自転車に乗った。帰ったら昴と話そう。助けてもらったんだから、今度は俺が昴を救いたい。そう硬く決意して、漕ぎ出そうとした。

 突然ずさぁーっと勢いよく目の前から誰かが滑ってきた。