「梛?」
どうかした?と聞かれても、何も答えられなかった。困惑と動揺で何を言えば良いのか、どうすれば良いのかわからず梛は昴の問いかけを無視して、自分の部屋に引き篭もった。
梛は一人、部屋の中で恒星に昴の事を聞くためにメッセージを送った。
『昴の病気の事について、教えてください』
恒星からは、割とすぐに電話がかかってきて『事務所の近くの喫茶店に来てほしい』と言われた。電話が切れた後、住所が送られてきて、梛は昴に自転車を借りてそこに向かった。
住所の場所は自転車で二十分くらいの場所にあった。洒落たバーの隣に建っている、レトロな喫茶店。着きました、と恒星に連絡を入れると一番奥の席にいるよ!と返ってきた。
喫茶店の奥まで入ると、恒星がサンドイッチを頬張っていた。梛が来た事に気付くとプレートの上にサンドイッチを置いて謝った。「恥ずかしいところを見せてしまってごめんね」
「いえ……」
「梛くんも何か頼みな」
メニューを渡されて、恒星さんと同じ物を頼んだ。値段的にも、一番安いランチセット。ついでに、気になっていた季節のパンケーキも。
自分で払うから頼んでも大丈夫ですか?と一応聞いてみると、恒星さんはそんな事気にしないでいいよと優しく笑った。
ランチセットが届いて、聞こう聞こうと思っていた事を口に出す。
「昴の病気の事について、教えて欲しいんです」
梛がそう言うと、恒星の顔が硬くなった。梛の手が膝の上でぎゅっと固まる。
「昴に聞いたの?」
「いや、昴の部屋で偶然あの箱を見つけてしまって……」
「あぁ、あれか……なるほどね。梛くんには話しとかないとか」
恒星は一度、コーヒーカップを口元に運びかけて、そっとテーブルに戻した。少し顔を緩めた恒星は昔の出来事を指でなぞるように、ゆっくり思い返すように話し出した。



