君の匂いを知っている



 りさに「お兄ちゃん達も花火大会も見て帰るの?」と聞かれて、初めてこの海で花火大会があることを知った。梛にせがまれて折角だから見て帰ることにした。
 日が暮れるまでは、りさ達と四人でビーチバレーしたり、海で泳いだり砂浜で城を作ったり、小さい子みたいに楽しんでいた。幼少期に戻ったみたいで楽しく過ごす事が出来た。

 ビーチパラソルやハンモックを片付けているうちに、夕日はすっかり沈みかけていた。二人でまた海の家で買った夜ご飯を食べながら、花火が打ち上がるのを待っていた。




 ひゅるーっという音を立てながら、夜空に、音を共鳴させながら激しく弾ける火の華。その光でカラフルに彩られた梛の横顔は綺麗で心臓が痛い。

 沢山花火が上がって、煙を残した夜空の余韻に浸っているきらきらした梛の瞳を横から見つめていると、勢いよく振り返ってきた。

「花火! 楽しかったな!」

「だよね、楽しかった」



 ずっと梛しか見えてなかったなんて言えなかった。こんなにキラキラした瞳を向けられているのに、こう簡単に嘘を吐いてしまうことができる自分が憎かった。

 やっぱり自分は嘘をつくのが得意なのだと気付かされてしまった。

——誰がヒーローだよ。梛の事すら忘れてたくせに。

 こんな俺に、梛の隣に立つ資格なんて、あるはずがない。